共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

中間温度帯の星間氷試料に対する紫外線照射実験
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 新潟大学
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 下西隆

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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渡部直樹 北大低温研

研究目的  星・惑星形成領域に存在する大型の有機分子の生成経路は未だ多くの謎に包まれている。近年の理論研究により、星が誕生する以前の極低温の分子雲段階で生成される氷に含まれる小型の有機分子が、宇宙線に起因する二次的紫外線により解離された後、誕生した星により徐々に加熱される過程が、大型有機分子の生成において重要な役割を果たすことが示唆されている (Garrod et al. 2022)。そこで本共同研究では、これまで光化学反応の実験的研究が進んでいないリンを含む星間氷に焦点を当て、リンを含む有機分子の星間空間における生成の可能性を実験的に明らかにすることを目的とした。
  
研究内容・成果  本年度は2023年3月20日に低温科学研究所を訪問し、実験および研究打ち合わせを行った。共同研究では、リンを含む星間氷試料の紫外線照射実験を行った。リンは生命にとって不可欠な元素であるが、太陽系外の星間空間におけるリンの存在形態については未解明な部分が多く、どのような形でリンが初期の地球に届けられたかは明らかになっていない。近年の天文観測により、PN, PO, PH3などの小型のリン系分子は星間空間に検出されているものの、リンを含む有機分子は未だその存在が明らかになっておらず、実験的アプローチに基づく研究が必要とされていた。
 実験は宇宙物質科学分野が保有する表面反応実験装置を用いて、渡部教授、大場准教授、およびNguyen研究員のサポートのもと実施した。実験では超高真空下で極低温(約10K)の基板上に生成したH2O氷に対し、PH3およびCOの混合ガスを吹きつけることでリンを含む星間氷の模擬試料を作成した。これに対し紫外線照射を1時間程度行い、生成物の確認をフーリエ変換型分光光度計を用いて行った。照射紫外線の積算フラックスは、分子雲が星形成の過程で経験する二次的紫外線の積算照射量に相当する。
 実験の結果、リンを含む星間氷模擬試料の紫外線照射に伴い、波数1726 cm^-1 付近において新たな吸収ピークの出現が観測された。リン系分子の生成の可能性があることから、現在バンドの同定作業を進めている。今回の実験ではこれ以外の吸収バンドの出現は観測されなかったが、紫外線照射により生成されるラジカルが効率的に表面拡散をはじめる、より高い温度帯での実験は行っていないため、今後は基板の温度を変えた実験を行い、誕生した星からの加熱を模擬する環境下での実験に発展をさせていく必要がある。また、同じ実験環境下で同様の照射実験をPH3を含まない氷試料に対して行い、比較データを取得する必要もある。今回の実験で得られたデータは、星間氷中のリンを介した光化学反応の解明に向けた重要な第一歩であり、得られた知見は今後の発展的な研究へと活かしていく。
  
成果となる論文・学会発表等