共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

冬季の常緑樹における光合成関連遺伝子の発現制御機構の解明に向けて
新規・継続の別 継続(R02年度から)
研究代表者/所属 京都府立大学生命環境科学研究科
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 佐藤壮一郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

田中亮一 北大低温研 教授

2

高林厚史 北大低温研 助教

3

伊藤寿 北大低温研 助教

研究目的  低温科学研究所の生物適応研究室では、常緑針葉樹のイチイをモデル植物として10 年以上にわたり厳冬期の常緑植物の光合成を研究してきた。近年では、複数年にわたり、年間を通してイチイの葉の光合成測定とサンプリングを行ってきた。札幌のように冬に最高気温が氷点下の時期が続く大都市は珍しく、これらデータとサンプルは、寒冷地の厳冬期における常緑樹の生存戦略を解明する上で大変貴重である。
 本研究では、次世代シークエンサーによるイチイのRNA-seqを実施し、冬季の常緑針葉樹の季節ごとの遺伝子発現プロファイルを明らかにし、トランスクリプトームの季節変化を解析することで、厳冬期の生存戦略の解明を目指す。
2019年9月から3月および2021年8月、2022年1月のイチイの葉のトランスクリプトームの主成分分析  
研究内容・成果 イチイ(Taxus cuspidata)のトランスクリプトーム解析

 トランスクリプトームの解析には解析対象のゲノム情報が必要だが、現在の公共ゲノムデータベースではヨーロッパイチイのゲノムしか利用できない。そこで本研究では、日本のイチイを解析対象として、前年度までのIso-seq解析で得られたfull-length cDNAや、夏から冬にかけてサンプリングした葉のRNA seqデータをヨーロッパイチイのゲノムにマッピングし、様々な遺伝子の季節ごとの発現変動 (トランスクリプトームの変動) を解析してきた。また、これまでは一本の樹(個体)において、北側、南側などさまざまな枝(n=6)を解析してきたが、今年度は個体間の差を確認するため、3つの個体の北側の枝を用いて解析を実施した。
 はじめに主成分分析を行ったところ、3つの個体においても、1個体の6箇所の枝においても、ほぼ同様のクラスタリングが見られ、本解析で得られた遺伝子発現パターンが、個体間や年度毎でばらつくことがなく、安定していることが明らかとなった(添付図参照)。
 また本解析ではRNA-seqの解析手法の改善にも取り組んだ。これまでの方法ではRNA-seqで得られたリードの約50%がマッピングできず、それらの情報を事実上「捨てて」しまうという問題があり、その理由として、Iso-seq解析データの量的不足により遺伝子の過半数が検出できなかったことや、ヨーロッパイチイのゲノムデータと日本のイチイとの塩基配列の違いが考えられた。そこで今年度は、de novo assemblyを行うことで、より多くの遺伝子に関する情報を得ようと考えた。De novo assemblyはPCのメモリやストレージを多く要求する方法である。本研究ではサンプル数が非常に多いため、各月のサンプルからそれぞれ1つだけを選んでde novo assemblyの解析を進めた。その結果、Iso-seq解析と比べて顕著に多い遺伝子配列を得ることができ、RNA seqデータの大多数のマッピングにも成功した。これら結果は、常緑樹のトランスクリプトームをより「深く」解析することができるようになったことを意味している。
 他にも、得られた遺伝子配列についての機能を明らかにするために、eggNOGmappeやKofamKOALA によるGOもしくはKO情報の取得、topGOやclusterProfilerを用いたenrichment解析を行い、どのような機能を持つ遺伝子が各季節で変動しているかを調べることができるようになった。
 これらの解析は常緑樹の光合成機構をさらに深く調べていく上で、重要な意義を持つと考えている。
2019年9月から3月および2021年8月、2022年1月のイチイの葉のトランスクリプトームの主成分分析  
成果となる論文・学会発表等