共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

野外観測と陸面モデルによる永久凍土融解と北方林の温室効果ガス交換過程の解析
新規・継続の別 継続(R03年度から)
研究代表者/所属 海洋研究開発機構
研究代表者/職名 グループリーダー代理
研究代表者/氏名 小林秀樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

甘田岳 海洋研究開発機構 ポスドク研究員

2

渡辺力 北大低温研 教授

3

森章一 北大低温研

4

藤田和之 北大低温研

5

斎藤史明 北大低温研

研究目的 近年の北半球高緯度の温暖化は全球平均を大幅に上回っており、今後もその傾向が続くと予測されている。こうした温暖化は永久凍土層の融解を加速させ、土壌環境の変化(湿潤化や乾燥化)を引き起こし森林生態系の生存環境を劣化させる可能性がある。本研究の目的は、北米大陸の永久凍土地帯の主要森林生態系であるトウヒ林を対象とし、今後数十年程度の比較的短期間で起こりうる急速な温暖化の影響を、観測と数値モデル解析の両面で明らかにすることを目的とする。特に2022年度は、前年度に開発した自動開閉チャンバーシステムを稼働させ、土壌温室効果ガスフラックスの初期結果を得ることを目的とした。
  
研究内容・成果 2022年度は雪解け直後の5月上旬よりアラスカ州フェアバンクス郊外のクロトウヒ林において、測器の設置を開始した。当初の計画どおり、コントロール区と昇温区(それぞれ直径約6m)を設置し、その中心に温暖化のモニタリングのための地温センサを埋設して地温計測を開始した。そして、昇温区においては、プロット周囲に1.5mの昇温ヒーターを計38本埋設した。また、地温計の周辺に2021年度に開発した暗チャンバー3台、明チャンバー1台をそれぞれ設置した。自動開閉チャンバーによる土壌CO2フラックス、純CO2生産量の観測は測器の6月から計測を開始し、測器の調整を進めながら、2022年8月より連続観測を開始した。2022年度の自動開閉チャンバーによる観測(各チャンバーで30分に1回5分閉鎖。24時間連続計測。CO2濃度はLI850ガスアナライザーによる計測)は、積雪が始まった10月中旬まで実施した(地温や気象観測は冬期も継続中)。
 今年度は、ヒーターによる土壌加熱(永久凍土融解)は実施せず、非昇温状態におけるコントロール区と昇温区の特性の違いを観察した。まず、各調査区の中心に設置した地温の結果から、両者とも表層付近の地温は強い日射や周辺樹木の影の影響をうけ、大きな日変動が観測された。地下30cm以下では日変動が小さくなる傾向があった。コントロール区と昇温区の地温を比較すると、昇温区の方がコントロール区より1.5℃程度、地温が高い傾向があることがわかった。これは、地下部の性質や日射環境の違いなども一因と考えられるが、主な原因として昇温区に設置した棒状のヒーターの地上部が吸収した熱による伝熱により地下部が温められた効果があると推察された。両区画ではチャンバー設置箇所の周辺で、季節的に土壌の融解が起こる土壌層である活動層深の季節変化の観測も実施したが、昇温区の方が常に活動層深が大きかった。
 また、自動開閉チャンバーによって得られたチャンバー閉鎖時のCO2濃度の変化から土壌CO2フラックスの時間変化を計算した。この結果、秋から冬にかけての季節の変わり目である9月〜10月にかけて、気温の低下とともに、CO2フラックスが減少している様子が見られた。また、土壌表層の地温が0℃以下になっても土壌からは一定のCO2が放出されていることが明らかとなった。これは、地下30-70cm層の未凍結層における土壌呼吸の寄与と推察された。詳細な解析は次年度以降さらに進める予定であるが、秋から冬にかけてのいわゆるショルダーシーズンにおけるCO2フラックスの放出動態は、土壌の表層部からの再凍結過程に関連した連続的な変化となっている可能性が示唆された。これらの成果は今後の陸域生態系モデルや陸面モデルの開発において、多層土壌モデルを検証・改良する際の重要な知見であると言える。
  
成果となる論文・学会発表等 甘田岳, 渡辺力, 森章一, 斎藤史明, 藤田和之, 伊川浩樹, 岩花剛, 永野博彦, 野口享太郎, 斉藤和之, 滝川雅之, 小林秀樹, アラスカ内陸部クロトウヒ疎林における土壌呼吸速度と土壌昇温実験計画
P2-154 日本生態学会第70回全国大会, オンライン, 2023年3月