共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
植物由来の新規氷核活性物質の氷晶形成機構の解析 |
新規・継続の別 | 継続(R01年度から) |
研究代表者/所属 | 東京大学大学院農学生命科学研究科 |
研究代表者/職名 | 特任研究員 |
研究代表者/氏名 | 石川雅也 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
久保光 | 東大・農学部 | 博士課程 |
2 |
矢島健 | 東大・物性研 | 助教 |
3 |
佐崎元 | 北大低温研 | |
4 |
長嶋剣 | 北大低温研 |
研究目的 | 高耐寒性植物組織は種や組織に特異的な凍り方を示し、組織水の凍結を積極的に制御することや多様な凍結制御作用物質の宝庫であることが判ってきた。本課題では組織の凍結開始に関わる氷核活性について研究する。本年度は申請者が見出した植物に含まれる新規な氷核活性物質COMについて研究を進める。COMの結晶構造や分子動力学的解析から氷核活性のある結晶面が予想される。今回、実験的にCOM結晶から本当に氷晶形成が生じ、予想される結晶面から発生するか、どんな氷晶が生じるかを低温研で開発された氷結晶発生観察装置等で解析する。これによりCOMが氷核活性物質であることの証明やその氷晶形成機構解明に資することを目指す。 |
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研究内容・成果 | 本年度も申請者らが植物から見出した新規氷核活性物質であるシュウ酸カルシウム一水和物(COM)結晶について研究を進めた。高い氷核活性を有するレンギョウ枝髄から単離したCOM結晶は、単離物でも-2℃程度の氷核活性を有するが、結晶サイズが10μm程度で、1個の結晶面からの氷結晶発生の観察は、著しく困難だ。解決法としてCOM鉱物結晶の利用が考えられ、前年に続き検討した。 鉱物由来COM結晶(Whewellite)は、チェコ、ドイツ等の鉱山から産出される。鉱山により結晶形状や大きさも異なり、多種Whewellite鉱物を世界のコレクタから入手し、約300個のWhewellite微結晶(0.5mm〜5mm程度)を基盤鉱物から剥離・割断して単離した。鉱物試料の場合、生成過程が生物内と大きく異なるため、典型的な発達結晶面も異なることが予想される(生物では[100]面は発達しやすいが、鉱物では必ずしもそうではない)。そこで、東京大学物性研究所の矢島氏の協力により、これらの鉱物由来COM微結晶と大型単結晶1個について、さらに100個の露出結晶面の同定を進めた。ほとんどの結晶では、[100]面は結晶面として露出していなかった。明確な[100]面を確認できたものは、割断面に偶然、この面が露出した結晶1個だけである。この結晶を用いて、低温研で水蒸気からの氷生成観察実験を行った。しかし、当該結晶面は、基盤になる大きな面ではない極細い結晶側面にあるため、観察装置の台座にしっかり固定することが著しく困難だった。粘土やグリースにより固定を試みたが、成功せず、残念ながら当該結晶面からの氷発生を観察できなかった。 生物内COMでは一般的な[100]面は、鉱物では稀にしか露出しない結晶面であるようだ。当該結晶も大きな単結晶を砕いて小さくしたもので、偶然、[100]面が劈開したと思われる。鉱物COM結晶では、生成過程((温度圧力等条件・形成時間等))が生物内COM結晶とは大きく異なることや生成時にシュウ酸カルシウム2水和物(COD)結晶等が生成し、その後安定型のCOMに変化して形成された可能性もある。 今後の方針としては、[100]面をもつCOM鉱物結晶の探索を矢島氏の協力の下、さらに進める方向と、最近発表された新しいCOM,CODの合成法を用いて、大きな[100]面を平面としてもつ比較的大型の結晶を作成し、これを利用する方向がある。実験用には後者が優れていると考えられ、これらの合成研究グループとの協力を考えている。単離した[100]面が露出していない多数の微小結晶についても、通常の液相での氷核活性測定を進める予定だ。これまでの結晶の六方晶性と分子動力学シミュレーションから、 [100]面に氷核活性があることが予想されたが、これ以外の結晶面にも氷核活性がある可能性も含め、解析を進める予定だ。 |
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成果となる論文・学会発表等 |
石川雅也 2022 MRIによる凍結様式可視化解析と凍結制御要因 日本木材学会組織と材質研究会冬季シンポジウム「樹木の越冬メカニズム」 Ishikawa M,et al. 2022 Preferential freezing avoidance localized in anthers and embryo sacs in wintering Daphne kamtschatica var. jezoensis flower buds visualized by MRI. Plant Cell Environ 45: 2109-2125 Ishikawa M 2021 Visualization of freezing behaviors in plant organs: diversity and mechanisms involved. 12th International Plant Cold Hardiness Seminar (Invited) 久保光,石川雅也他 2020 ササ類に含まれる氷核活性物質の探索 低温生物工学会誌 66:105-109 Ishikawa M, et al. 2018 Ice nucleation activity in plants: the distribution, characterization and their roles in cold hardiness mechanisms. Survival Strategies in Extreme Cold and Desiccation. Springer,pp99-115 石川雅也 2018 植物由来の凍結制御物質の探索と機能評価 不凍タンパク質の機能と応用 CMC出版 石川雅也,野村孝之,槌谷明日香 2016 シュウ酸カルシウムを含む氷核活性剤 特許第6029058号 |