共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

アミノ酸安定同位体比によるサンマを中心とした生態系構造の時空間変化の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 水産研究・教育機構 水産資源研究所
研究代表者/職名 研究員
研究代表者/氏名 冨士泰期

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

山口珠葉 水産研究・教育機構 水産資源研究所 研究員

2

宮本洋臣 水産研究・教育機構 水産資源研究所 主任研究員

3

谷内由貴子 水産研究・教育機構 水産資源研究所 主任研究員

4

冨樫博幸 水産研究・教育機構 水産資源研究所 主任研究員

5

桑田晃 水産研究・教育機構 水産資源研究所 主幹研究員

6

力石嘉人 北大低温研

7

滝沢 侑子 北大低温研

研究目的 近年サンマ資源が特に分布域の西側で顕著に減少しており、歴史的不漁の直接的要因となっている。サンマの資源変動要因を生態系レベルで包括的に明らかにすることを目指し、 (1)サンマの生息域における海洋観測による栄養循環の時空間変化の解明、(2)全炭素・窒素安定同位体比分析およびアミノ酸窒素同位体比分析により、栄養塩からプランクトン群集を介してサンマへつながる生態系構造の時空間変化の解明を目的とする。
特に経度180°線より西側と東側でのサンマに至る食物連鎖長の違いとそれを取り巻く海洋環境の違いに着目することで、近年のサンマの著しい資源量変動のメカニズム・要因の解明を目指す。
  
研究内容・成果 観測データや衛星観測をもとにした全球再解析データを用いてサンマが分布する北太平洋移行域周辺の海洋構造と一次生産メカニズムの関係を調べた。西側では南から供給された黒潮由来の水が親潮由来の水の上に広がり、混合層深度が浅くなる条件下で高い基礎生産がおきていた。一方、経度180°より東側では移流によって表層に北からの低塩分水が供給されやすい状況であり、生産につながる水塊混合の仕組みが西側と異なることが示唆された。
サンマおよびその餌生物であるカイアシ類の全窒素およびアミノ酸窒素安定同位体比を測定し、推定された栄養段階を経度180°の東西で比較した。サンマの全窒素安定同位体比は東西で異なったのに対し、栄養段階はサンマ・カイアシ類ともに東西での違いは見られなかった。したがって、サンマの全窒素安定同位体比の空間変動は栄養段階ではなく、一次生産者の窒素安定同位体比の空間変動の影響を受けると考えられた。上述のような生産構造の東西の違いにもかかわらず、サンマへつながる食物連鎖長・栄養転送効率は東西で大きく変わらないことが明らかとなり、サンマ資源の時空間変動を考えるうえで、栄養転送の起点となる一次生産者の種類や量の時空間変化が重要であることが示唆された。
懸濁態有機物(POM)、動物プランクトンおよびサンマについて、炭素・窒素安定同位体比を測定した。POMの窒素安定同位体比は硝酸塩濃度、水温に対して変化したが、それを差し引いても東ほど高くなる傾向を示し、既報の硝酸態窒素の安定同位体比の分布とおよそ一致した。この結果から東側の海域ではアラスカ湾周辺等からの脱窒由来の硝酸塩が移流していることが示唆された。
 動物プランクトンの炭素・窒素安定同位体比はそれぞれ水温、NP比と関連していることが明らかになり、両者は異なる海洋環境の影響を受けて変動することがわかった。サンマと動物プランクトンの炭素・窒素安定同位体比を、濃縮係数を考慮し比較すると、経度180°以東に分布する高い窒素同位体比を有するサンマは、経度180°以東の亜寒帯境界より北の海域の動物プランクトンの安定同位体比で説明できることが示された。これらのサンマは、肥満度が高い傾向がみられ、本海域の餌料環境が肥満度の増加に関与している可能性が示唆された。
 一方、サンマと同測点で採集された動物プランクトンの炭素・窒素安定同位体比の差は、一般的な濃縮係数とは一致しないことも多く、特に経度180°より東側の海域では、その差異が大きかった。この海域のサンマには西側に比べ成熟個体が多く含まれていたことから、調査海域への来遊が遅く、来遊前の餌(亜寒帯境界以南の高い窒素同位体比)も反映していた可能性が示唆された。
 今後はサンマの安定同位体比と成長(肥満度)の長期的な変動を調べ、近年のサンマの栄養状態の悪化、ひいては資源状況の悪化の要因を明らかにすることを目指す。
  
成果となる論文・学会発表等 (共著)冨士泰期,宮本洋臣,力石嘉人,滝沢侑子,児玉武稔,山口珠葉,冨樫博幸,桑田晃:アミノ酸窒素安定同位体比を用いたサンマにつながる食物連鎖長の空間変化の推定,水産海洋学会創立60周年記念大会講演要旨集 pp.92,2022