共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

星間塵表面におけるオルソ/パラ比の決定機構の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 分子科学研究所
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 杉本敏樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

鶴岡和幸 分子科学研究所 博士研究員

2

佐藤宏祐 分子科学研究所 大学院生

3

渡部直樹 北大低温研

研究目的 極低温の星間分子雲には固体微粒子(星間塵)が存在し,その表面で始原的な星間分子や多くの有機分子が生成している.近年の所内対応者や申請者らの研究を中心として,この星間塵表面に物理吸着した水素分子のオルソ-パラ転換が,分子雲環境における分子進化の反応速度や反応選択性に大きな影響を及ぼすことが明らかになってきた.本研究では,星間塵のモデル鉱物表面基板を作成し、申請者の非線形分光計測によりオルソ/パラ転換過程をその場観測することを目的とする.
  
研究内容・成果  申請者の超短パルスレーザー光源をベースとして,広帯域近赤外光発生系を構築し,同軸配置にて三次非線形分光システムを構築した。同システムを用いて,等核二原子分子に対して,特に大気中のN2, O2分子やH2, D2ガス分子に対する振動回転線の測定に成功した.同セットアップにてこれらのガス分子の自発ラマン測定を行ったところ,非線形ラマン分光法は自発ラマン分光法に比して105倍以上の感度向上を実現できていることが明らかになった.
この非線形分光システムを用いて物質基板上の分子系の観測を試みた結果、真空窓材由来の共鳴・非共鳴信号が極めて大きいことが発覚した。そこで、非同軸配置での非線形分光システムに改良して真空窓材での信号発生の問題を克服した.
一方,H2, D2分子の物理吸着系に対しては,1nm以下の極薄の単層分子吸着系に対しての計測感度を達成することも重要な技術要素課題である.すなわち基板の電子応答に起因する非共鳴信号が物理吸着種の信号計測の妨げとなるため,吸着基板由来の非共鳴信号を大幅に低減させる必要がある.我々は,電子応答と分子の振動・回転応答の時間スケールの違いに着目し,時間領域分光スキームと周波数領域分光スキームの基礎に立ち返り,それぞれ長所を組み合わせながら,1000cm-1以下のモードに特化した2-color非同軸CARS分光システム,及び1000cm-1以上のモードに特化した3-color非同軸CARS分光システムを構築した.共同研究で作製したアモルファスMg2SiO4基板を用いた非線形分光実験により,これらのスキームで吸着基板由来の非共鳴信号を大幅に低減できることが明らかになった.
  
成果となる論文・学会発表等 ・学会発表(招待講演)
Toshiki Sugimoto,「Nuclear-spin conversion of molecular hydrogen physisorbed on cryogenic surface」, Pacifichem 2021,onlineオンライン開催,Dec.2021.

杉本敏樹,「モデル星間氷のレーザー分子分光で拓く星間塵の新奇物性と機能」, 「自然科学における階層と全体」シンポジウム,オンライン開催,2022年1月.