共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

冬季の常緑樹における光合成関連遺伝子の発現制御機構の解明に向けて
新規・継続の別 継続(R02年度から)
研究代表者/所属 京都府立大学生命環境科学研究科
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 佐藤壮一郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

田中亮一 北大低温研

2

高林厚史 北大低温研

3

伊藤寿 北大低温研

研究目的  低温科学研究所の生物適応研究室では、常緑針葉樹のイチイ (Taxus cuspidata) をモデル植物とし、10 年以上にわたり厳冬期の光合成の研究を行っており、年間を通してイチイの葉の測定とサンプリングを行ってきた。このようなデータは寒冷地の厳冬期における常緑樹の生存戦略を明らかにするうえで、非常に貴重なものである。 
 そこで、本研究では、冬季の常緑針葉樹の季節ごとの遺伝子発現プロファイルを明らかにするため、イチイをモデル材料として次世代シークエンサーによるRNA-seq 解析を行いトランスクリプトームの季節変化を明らかにすることで、厳冬期の生存戦略を解析することを目的とする。
  
研究内容・成果  前年度までに、Iso-seqで得られた遺伝子モデルを鋳型にして、季節ごとのRNA-seqデータをマッピングすることで、季節ごとの各遺伝子の発現量の変動を解析することに成功した。今年度はどのような遺伝子がどの時期に発現しているのかを調べるために、GO enrichment解析を行った。その結果、冬季に発現量が多い遺伝子群に環境ストレスに対する防御遺伝子群が多く含まれることが明らかになった。また、前年度に報告したELIP遺伝子以外にdehydrinファミリー遺伝子も冬季に多く発現していた。Dehydrinに関してはモデル生物における先行研究から耐凍結に寄与している可能性が考えられた。逆に、タンパク質の翻訳や光合成に関与する遺伝子群の発現量が低下しており、厳冬期に光合成やタンパク質合成の活性が低く保つための機構の1つはRNAの発現制御レベルであることが明らかになった。
 一方で、Iso-seq解析は全長cDNA配列が得られるという大きなメリットがあるものの、リード数が足りないため、得られた遺伝子モデルが少ないという問題点があった。つまり、発現量が少ない遺伝子についてはIso-seq解析でその遺伝子配列が得られず、その発現量も得られないという問題があった。そこで、今年度は、イチイの近縁種であるヨーロッパイチイ(Taxus baccata)のゲノム情報を鋳型にして、季節ごとのRNA-seqデータをマッピングした。その結果、多くの遺伝子の発現情報が得られた一方で、残念ながら公開データベース上の遺伝子モデルの予測精度に問題があることも解析を通じて明らかになってきた。さらに季節ごとのRNA-seqデータを基にした”de novo assembly”により遺伝子モデルを作成するという試みも行った。この手法はコンピュータリソース(特にメモリ)を大量に要求するため、データの一部を用いて行った結果、良好な結果を得ることができた。しかし、その一方で、用いるソフトウエア(アルゴリズム)によっても得られる結果が大きく変わることも分かってきた。
 以上の結果より、トランスクリプトーム解析において精度と網羅性の両方を満たすアプローチは完成していないものの、季節ごとのトランスクリプトームの変化をある程度追いかけることが可能となった。そして、その結果からELIPやdehydrinなどの遺伝子が重要な役割を担っていることが見えてきた。今後は、最近になってゲノムが公開された別種のイチイの情報を本研究のトランスクリプトーム解析に利用することで、さらなる改善を行いたいと考えている。
  
成果となる論文・学会発表等