共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

落葉樹林の林床の常緑草本の葉における低温ストレスへの光合成系の保護機構の解明
新規・継続の別 継続(H30年度から)
研究代表者/所属 東京薬科大・生命科学
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 野口航

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

田中亮一 北大低温研

研究目的 落葉樹林の林床では夏は高温だが弱光、冬は強光だが低温という環境である。タマノカンアオイやオウレンなどの常緑草本種は1年間の環境変動に順化した光合成系を維持していると考えられる。これまでモデル植物で強光ストレスから光合成系を保護する機構は調べられてきたが、冬の低温・強光下で生育し光合成をしている常緑草本種の葉の光合成系の保護機構には不明な点が多い。本年度は継続研究課題として、常緑草本種であり、変種間で葉の形態が大きく異なるオウレンの2変種であるキクバオウレンとセリバオウレンを用いて、光合成電子伝達系や光合成系色素の低温ストレスへの順化能力を2変種間で比較することを目的とした。
オウレンの光化学系IIの電子伝達速度 (a)、NPQ (b)、カロチノイドのlutein量 (c)  
研究内容・成果  申請者が所属する大学構内のスギ・落葉樹混交林の林床に自生する常緑草本種のオウレンを用いた。本研究では、薬用植物として主に用いられているセリバオウレンとともにキクバオウレンを用いた。鉢に移植し、北斜面のスギ・落葉樹混交林の林床に置いた。2019年度から2021年度に生育場所の光強度や気温の継続的な測定とともに、クロロフィル蛍光法やP700の吸収測定法で定期的にオウレンの葉の光合成電子伝達系のパラメータを測定し、1年に4回、葉をサンプリングした。サンプリングした葉を用いて、乾燥重量や窒素量の測定とともに、田中亮一博士の研究室のHPLCシステムを利用して、光合成色素のクロロフィルとカロテノイドの測定を行なった。
 2021年度は葉が展開した直後の4月から葉が枯死する2月まで1ヶ月おきに光合成パラメータの測定をした。光化学系IIの電子伝達速度(ETRII)は秋に値が高くなったが、気温が下がると低下した (図a)。秋に光合成子伝達速度が増加するときに、クロロフィル蛍光パラメータであるqLが上がっていた。光合成子伝達速度が増加するときにプラストキノンプールが酸化され、電子が流れやすくなっていたと考えられる。冬には、熱散逸を示すパラメータであるNPQも上がった (図b)。しかし、Fv/Fm値やPm値も低下した。光化学系IIも光化学系Iもある程度光阻害を受けた。
2変種間で比較すると、キクバオウレンの方が光合成電子伝達速度が高く、冬にNPQが高くなり、キサントフィルやルテインなど熱散逸に機能する色素量もセリバオウレンよりも多かった (図c)。キクバオウレンでは、葉面積あたりの乾燥重量や窒素量も高い傾向であった。セリバオウレンの方が耐陰性が高いが、冬の低温下では光合成系を維持できないようであった。
オウレンの光化学系IIの電子伝達速度 (a)、NPQ (b)、カロチノイドのlutein量 (c)  
成果となる論文・学会発表等