共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

札幌の積雪中に含まれる光吸収性不純物の起源と融雪への寄与の定量化
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 気象庁気象研究所
研究代表者/職名 主任研究官
研究代表者/氏名 庭野匡思

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

大河原望 気象庁気象研究所 室長

2

谷川朋範 気象庁気象研究所 主任研究官

3

梶野瑞王 気象庁気象研究所 主任研究官

4

橋本明弘 気象庁気象研究所 主任研究官

5

青木輝夫 国立極地研究所 特任教授

6

的場澄人 北大低温研

研究目的 我々はH16以降、低温科学研究所露場での放射・気象・エアロゾル・雪氷の連続観測に取り組み、多くの研究成果を上げてきた。その過程でNiwano et al.(2012)は、2007~2009冬期の札幌の積雪期間が、積雪内部に閉じ込められた光吸収性不純物によって約2週間短くなっていることを明らかにした。しかし、札幌の積雪内部に存在する光吸収性不純物の起源や、起源毎の定性的・定量的特徴、及び、各起源由来の光吸収性不純物の融雪への定量的寄与の多寡については不明である。本研究では、低温科学研究所露場における積雪断面観測、熱・水収支観測、積雪中光吸収性不純物観測を継続すると同時に、最新の数値モデルを活用して、それらの点の解明に挑む。
  
研究内容・成果  本研究では、本一般共同研究の枠組みの一環として札幌の低温科学研究所露場において現在と同様の気象・雪氷・放射観測を実施していた2011-2012冬期(11〜4月)を解析対象とし、気象研究所で開発している世界的に見ても詳細な積雪変質モデルSMAPと領域気象化学モデルNHM-Chemを組み合わせて、札幌に到達して積雪に沈着した国内・国外由来の光吸収性不純物(ブラックカーボンと鉱物ダスト)の量をシミュレートし、融雪に対するそれらの相対的影響を評価した。ソース・レセプター解析機能(特定の発生源で生成され大気中に放出されたエーロゾルが、ある地点の沈着量にどの程度の影響を与えるかを数値的に解析する手法)が実装されたNHM-Chem-SMAP結合システムによる札幌地点でのシミュレーション結果の精度評価を行った上で多角的に解析したところ、研究対象期間に札幌に到達して積雪に沈着したブラックカーボンと鉱物性ダストに国外由来の不純物が占める割合は、それぞれ約82%と約94%に達することが分かった。また、札幌における全積雪中光吸収性不純物は融雪を15日早める効果を持っており、そのうち国外由来の積雪中光吸収性不純物の寄与が約7割(10日)に達したことが明らかになった。さらに、積雪中光吸収性不純物による雪面での放射強制力を評価したところ、12〜2月の厳冬期の全放射強制力は約12 W/m2であり、そのうち約60%が国外由来の積雪中光吸収性不純物によることが分かった。一方3月の融雪期になると、全放射強制力は約30 W/m2に急増し、国外由来の積雪中光吸収性不純物の寄与も約80%にまで上昇することが明らかになった。日本周辺では、例年3月以降になると、大陸から頻繁に低気圧が日本付近に接近することから、大陸から光吸収性不純物が多く輸送されるやすい環境場になる。このことが、推定された寄与率の明瞭な季節内変化に影響していると考えられる。また、融雪期の積雪表面付近において引き起こされる不純物濃縮も重要な要因である。以上の成果をGRL誌において発表して[1]、更に、報道発表[2]や一般向け講演会[3, 4]での周知・解説を行った。
 本研究は1冬期分の成果ではあるものの、今後は、札幌における知見を積み重ねると同時に国内他地点にも本手法を適用することを通して、我が国の効果的な環境保護対策に資する基礎情報の蓄積に貢献していく。そのために、今年度も、低温科学研究所露場において地上気象・放射・OPC連続観測を実施した。冬期間には、地上設置型改良全天分光日射計GSAFによる積雪表面付近の積雪粒径・光吸収性不純物濃度の遠隔測定、積雪断面観測、及び積雪サンプリングを実施した。積雪サンプルは気象研に冷凍状態で輸送し、雪氷汚染を引き起こす光吸収性不純物濃度の測定を実施した。取得したデータは、昨年度の共同研究(20G042)報告で記した内容に沿い、品質管理を施したのちに研究コミュニティに公開する。
  
成果となる論文・学会発表等 [1] Niwano, M., Kajino, M., Kajikawa, T., Aoki, T., Kodama, Y., Tanikawa, T., and Matoba, S. (2021), Geophys. Res. Lett., 48, e2021GL093940. https://doi.org/10.1029/2021GL093940

[2] 庭野匡思, 2021: 気象研究所報道発表「札幌の積雪中に存在する光吸収性粒子が融雪に与える影響を国内・国外由来に分離して推定しました」, 2021年10月26日, https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R03/031026/press_031026.html, https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/211026_pr.pdf,
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20211026-1.html

[3] 庭野匡思, 2021: 講演1「降雪と積雪」, サイエンスアゴラ「温暖化時代の雪と私達の暮らし〜雪氷研究の最前線から〜」, No.06-C17, 2021年11月6日.

[4] 庭野匡思, 勝山祐太 (2022): 雪氷圏における気候変動と気象防災, 気象雪氷サイエンスカフェつくば, 主催:(公社)日本雪氷学会(関東・中部・西日本支部)/(公社)日本気象学会(教育と普及委員会)/(一社)日本気象予報士会, http://meteocafe.blogspot.com/2022/01/213_22.html, 2022年2月14日.