共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

野外観測と陸面モデル解析による永久凍土融解と北方林の温室効果ガス交換過程の解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 国立研究開発法人海洋研究開発機構
研究代表者/職名 グループリーダー代理
研究代表者/氏名 小林秀樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

渡辺力 北海道大学低温科学研究所 教授

1

甘田岳 国立研究開発法人海洋研究開発機構 ポストドクトラル研究員

1

森 章一 北海道大学低温科学研究所 技術班長

1

藤田和之 北海道大学低温科学研究所 技術主任

1

斎藤史明 北海道大学低温科学研究所 技術職員

研究目的 近年の北半球高緯度の温暖化は全球平均を大幅に上回っており、今後もその傾向が続くと予測されている。こうした温暖化は永久凍土層の融解を加速させ、土壌環境の変化(湿潤化や乾燥化)を引き起こし森林生態系の生存環境を劣化させる可能性がある。近年の熱波や温暖化が北方林生態系の温室効果ガスの吸収・放出過程に及ぼす影響については未解明な部分が多く、また、その正確な予測モデルの開発も進んでいない。本研究の目的は、北米大陸の永久凍土地帯の主要森林生態系であるトウヒ林を対象とし、今後数十年程度の比較的短期間で起こりうる急速な温暖化の影響を、観測と数値モデル解析の両面で明らかにすることを目的とする。
  
研究内容・成果 急速な温暖化による永久凍土の融解がトウヒ林の温室効果ガス吸収・放出過程に与える影響を理解するために、ヒーターで土壌を徐々に加熱して永久凍土の融解を行う実験の検討を進めた。本実験では、対照実験として実験区に土壌の昇温を行う昇温区と昇温を行わない非昇温区を設置し、それぞれに自動開閉チャンバーを各4台(各サイトで光合成計測のためのアクリル明チャンバー1台、土壌呼吸計測用のPVC暗チャンバーを3台)設置して連続計測を実施する計画である。土壌の加熱実験については、文献調査等により先行研究を調査し、北米ミネソタ州の針葉樹林で行われているSPRUCE実験を参考にした。本実験では1.5m(直径約5cm)の棒状のヒーターを実験区周辺に円状に数十センチ間隔で取り囲むように埋設し、円状の実験区内部の土壌の昇温を行うこととした。今年度はヒーターシステムの試作と予備実験を行った。このシステムで非昇温区に比較して平均2-3℃地温を上昇する予定である。また、自動開閉チャンバー8台についても、低温科学研究所・技術部にて開発を進め、赤外線ガス分析計をガス切り替え用の電磁弁を通じて4台のチャンバーに接続し、小型ポンプで毎分1リットルのガスを吸引してチャンバー内部のガス濃度の変化計測できるシステムを2セット開発した。今年度は、この自動開閉チャンバーによる温室効果ガスフラックス自動計測システムが完成し、その稼働試験を行った。今年度開発したヒーター昇温システムと自動開閉チャンバーシステムは、2022年度にアラスカ州内陸部のトウヒ林に輸送し、現地に設置して実験を開始する予定である。
 数値モデル解析については必要な入力データの整備を進めた。数値モデル解析では、昇温実験の主目的である林床のエネルギー・ガス収支過程の評価にとって重要となるトウヒ林の林床における放射収支の正確な把握を目的とした。本研究で対照とするアラスカ内陸のトウヒ林は、樹冠被覆率が20%以下の疎林であり、林床レベルでの放射収支の把握のためには、樹木密度やその空間配置の影響を正確に捉えて放射収支を計算する必要がある。本研究では、現地の精密航空写真を入手し、写真解析によって観測サイト周辺の樹木位置を抽出した。さらに、航空写真上に映る影の長さを計測して樹高の評価を行った。別途過去に現場で行った30m×30m区画の毎木調査のデータと比較し、規定の補正項を乗じることで樹高を評価できることが明らかとなった。さらにこの航空写真で抽出した樹木情報を、研究代表者らがこれまで開発を進めてきた放射伝達モデルに入力して解析を行い、林床の日射分布の推定を試みた。この数値計算結果をMATSIROなど既存の陸面モデルの改善につなげるための方策について、渡辺教授とオンライン及び低温研究所において議論をすすめた。
  
成果となる論文・学会発表等 Amada G., Ecophysiology of lower-side leaf trichomes in cold alpine areas in a Hawaiian tree species & Research plan of a soil-warming experiment in Alaska,IARC-ARC International Joint Seminar, Feb 22,2022.