共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

海氷による藻類の取り込み過程に着目した海氷試料の分析および解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 国立極地研究所
研究代表者/職名 特任研究員
研究代表者/氏名 伊藤優人

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

豊田威信 北大低温研

2

的場澄人 北大低温研

研究目的 北極海や南大洋、オホーツク海などの凍る海、極域海洋では海氷の融解後に大規模な植物プランクトンの増殖(氷縁ブルーム)が生じることが知られている。氷縁ブルームの発生要因として、海氷融解による光環境の改善や融解水の海洋への供給に伴う海洋表層の成層の強化に並行し、栄養塩やブルームの種となる植物プランクトンの海氷から海洋への供給が重要視されつつある。後者について、特に植物プランクトンは如何にして海氷に取り込まれたのかを明らかにすることが本研究課題の目的である。
写真1. ケープダンレー沖で採取した海氷 写真2. 海氷サンプルの厚辺(上)と薄片(下) 
研究内容・成果 第59次日本南極地域観測隊の行動として2018年2月下旬(秋季)に実施された南大洋・ケープダンレー沖での海洋・海氷観測において、褐色のグリースアイスに遭遇した(写真1)。グリースアイスとは海中で生成されたフラジルアイス(氷晶)が海面付近に集積して形成される流動的な氷であり、通常は白色である。同観測においては、褐色のグリースアイスおよびその氷が固化したと見られる蓮葉氷を採取した。これら2種類の氷においてコールターカウンターを用いて氷中の含有粒子の粒度分布を測定したと共に、蓮葉氷については厚片・薄片解析により氷の成長過程を推定した。
 氷の色、褐色の要因については別途海水・海氷の成分の分析から植物プランクトンである可能性が高いことが示唆された。コールターカウンターにより測定したグリースアイスおよび蓮葉氷に含まれる粒子の粒度分布も、海氷内に含まれる植物プランクトンの大きさとほぼ整合的であったことから、コールターカウンターにてカウントされた粒子は主に植物プランクトンと考えられる。厚片・薄片解析の結果から、蓮葉氷は鉛直方向に3層に分かれており(写真2)、上2層はスラッシュ(積雪とフラジルアイスの混合物)が固化したもの、最下層はフラジルアイスが固化した層であると推定された。蓮葉氷最上層は空隙が目立ち、採取時には完全に固化していなかったスラッシュと考えられる。グリースアイスと蓮葉氷最上層の氷中に含まれる粒子(主には植物プランクトン)の総体積、および蓮葉氷の下2層に含まれる粒子の総体積は各々同程度であり、後者は前者の3割程度の量であった。
 この分析・解析結果から、以下の海氷による植物プランクトンの取り込み過程が考えられる。1. 強風・擾乱環境で海中で生成されたフラジルアイスが海中の植物プランクトンを捕獲する。2. フラジルアイス(グリースアイス)が氷盤へと固化する際に植物プランクトンは氷の中へと固定される。ただし、グリースアイスが捕獲した植物プランクトンの7割程度はブラインと共に海中へと排出される。3. 海氷上の積雪に波などがかかると植物プランクトンが海氷上(積雪またはスラッシュ内)に捕獲される可能性がある。
 比較として、巡視船「そうや」によるオホーツク海観測で採取された海氷のうち、底面結氷により成長した部分に含まれる粒子の粒度分布も測定した。その結果、この氷の含有粒子の粒度分布関数の形は上述の褐色の新成氷のものとは異なり、また含有粒子の総体積は褐色の新成氷の1〜2オーダー小さな値となった。したがって、擾乱環境で生成されるフラジルアイスは海中に漂う植物プランクトンを効率よく取り込むことが示唆された。
写真1. ケープダンレー沖で採取した海氷 写真2. 海氷サンプルの厚辺(上)と薄片(下) 
成果となる論文・学会発表等