共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

耕地生態系と大気環境の相互作用の解明
新規・継続の別 継続(H30年度から)
研究代表者/所属 農業・食品産業技術総合研究機構
研究代表者/職名 主任研究員
研究代表者/氏名 伊川浩樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

丸山篤志 農業・食品産業技術総合研究機構 上級研究員

2

小野圭介 農業・食品産業技術総合研究機構 上級研究員

3

桑形恒男 農業・食品産業技術総合研究機構 ユニット長

4

石田祐宣 弘前大学 准教授

5

渡辺力 北大低温研

研究目的 近年、寒冷地を中心に地球温暖化が進行し、農耕地の気象環境や作物の生産への影響が顕在化している。さらに温暖化によって作物の栽培適地が高緯度地帯まで移動することが考えられる。また、作物の収量は、作物の生育期間における平均的な気象条件だけではなく、短期的に起こる極端な気象条件にも影響を受ける。
耕地生態系は、大気環境から影響を受けるのみならず、大気-植生-地表面間の熱・水・物質輸送を通じて、地域のエネルギーや物質の循環や局地気象の形成にも影響を与える。本研究は、大気-植生-地表面間の熱・水・物質輸送に関わる計測とモデリングの研究開発を推進することを目的とする。
  
研究内容・成果 2月6日から7日にかけて研究集会をおこなった。伊川からは、昨年度の研究成果である、「大気-水田生態系相互作用モデル」を使用した研究の紹介および、アラスカで観測された積雪深を再現する数値モデルの紹介をおこなった。
石田からは、青森県三戸町を対象として、農研機構メッシュ農業気象データと水稲生育収量予測・品質評価モデルを用いた、現在気候および将来気候における水稲収量予測の計算結果を紹介した。現地における気温観測と、農研機構メッシュ農業気象データの気温の差異が、水稲の生育予測にバイアスをもたらすことを報告した。一方、気温変動に対する予測収量の変動が過剰である可能性が高く、その原因の特定や他のモデル計算結果との比較が必要ではないか、との議論がなされた。
渡辺からは、北海道における最低気温の地域特性、森林キャノピー内における圧力変動の測定結果、地吹雪の数値モデルの紹介をおこなった。最低気温の地域特性に関しては、北海道における日最低気温について、主成分解析から北海道の地域による最低気温の相違を明らかにしたことを紹介した。圧力変動に関する研究に関しては、森林においてどのような条件で群落内部まで伝わるような圧力変動がおこるのかについての考察したことを紹介した。地吹雪の研究に関しては、格子ボルツマン法を用いた地吹雪のシミュレーションによって、粒径が小さくある高さを超えた氷粒子が、乱流によって運ばれる様子をモデルで紹介した。
丸山からは、三球温度計、水田の水管理ソフト、結露モデルの論文についての紹介があった。三球温度計に関しては、ハウスで使用する場合の注意点や、専用データロガーの開発状況が報告された。水田の水管理ソフトに関しては、水田水温を制御するための灌漑方法と、それによる水稲品質の変化が報告された。結露モデルに関しては、群落多層モデルの構造やそれによる結露の再現性が報告された。
小野からは、渦相関法における平均時間を短縮させるための研究と、ドローンを用いた気象観測の取り組みについての報告をおこなった。平均時間を通常の30分から15秒まで短縮した場合の結果を紹介した。平均時間を分単位ほどに短縮することで、フラックスの強度は低下するが、光応答について、これまでに試みがないような考察ができる可能性を報告した。
桑形からは、成果論文の紹介をおこなった。イネを対象に、植物体内の水輸送をコントロールすると考えられるアクアポリンを含めた、根と葉の全遺伝子発現量と、植物に対する大気の蒸散要求の関係性を、環境操作実験によって示した。
研究協力者として参加した若月(農研機構)からは、日本全国の水稲の品質を気温と
穂温を説明要因とした解析を紹介した。統計解析の結果、水稲の品質は、気温に加えて日射や湿度が重要な説明要因であるが、穂温によって、日射や湿度の影響をある程度考慮できることを報告した。
  
成果となる論文・学会発表等 [1] Kuwagata, T. el al (2022) Hydrometeorology for plant omics: potential evaporation as a key index for transcriptome in rice. Environmental and Experimental Botany 196, 104724
[2] Ikawa, H. et al (2022) Multiplicative sensitivity of rice canopy evaporation to atmospheric carbon dioxide, temperature, and humidity, Abstract for International Symposium of Agricultural Meteorology