共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

 ヒマラヤのアイスコア分析による鉱物粒子沈着量と大気循環の変動復元
新規・継続の別 継続（R02年度から）
研究代表者／所属 名古屋大学環境学研究科
研究代表者／職名 教授
研究代表者／氏名 藤田耕史

研究分担者／氏名／所属／職名
　
氏　　名
所　　属
職　　名

1

 坂井亜規子 名古屋大環境学研究科 准教授

2

 鈴木利孝 山形大理学研究科 教授

3

 江刺和音 名古屋大環境学研究科 博士課程1年

4

 佐藤洋太 名古屋大環境学研究科 博士課程3年

5

 植村立 名古屋大環境学研究科 准教授

6

 對馬あかね 千葉大学理学研究科 研究員

7

 瀬戸大貴 千葉大学融合理工学府 修士課程1年

8

 竹内望 千葉大学理学研究科 教授

9

 的場澄人 北大低温研

10

 飯塚芳徳 北大低温研

研究目的 2019年11月にネパールヒマラヤのトランバウ氷河6000m地点にて掘削した、アイスコア(80m長)中のダストの粒径、水溶性の化学主成分、溶存態および粒子態を含めた金属成分の全濃度(全金属)を測定し、得られたダスト粒径、化学主成分の変動および溶存態-全金属比の変動を、並行して復元する降水量及び再解析データ(降水量・気温)などと比較することで、ダストの供給源を推定するとともに、モンスーンを含む大規模大気循環の変遷を復元し、その変動要因を考察することを目的とする。
　　
研究内容・成果 本研究では、全試料(1637試料)の水安定同位体比測定が完了した。予備的に年代決定をおこない、約125年分の環境復元が期待できることを確認した。年代が確定してからの本格的な解析の準備として、アメリカ・中国の研究グループによって掘削された、ヒマラヤ北面における二つのアイスコアの公開データとの比較を進めた。まず、1980から1990年にかけての酸素同位体(d18O)と客観解析データ(ERA5)の気温(T)の平均値を比較したところ、d18O/T = 0.33 ‰/℃の変化率が得られた。これは、降水同位体の観測ネットワークのデータから見積もられた、0.6-0.7 ‰/℃に対し、小さい変化率であった。一方、トランバウ氷河の掘削地点は緩やかな斜面にあるため、流動の影響を補正する必要がある。そこで、2016から2019年の観測で得られた表面傾斜4.7°、流動速度16.5 m/yr、アイスコア掘削3地点の関係から得られた気温減率6.3 ℃/km、上で求めた同位体の気温に対する変化率0.33 ‰/℃を用い、トランバウコアの酸素同位体の値を補正した。具体的には、深い深度の氷はより高い標高に堆積した雪が流れてきた氷であるため、補正によって暖かい方へ値を補正することになる。この補正によって、酸素同位体の長期トレンドは、補正前の2.2 ‰/centuryから1.8 ‰/ centuryとなり、先行研究の0.7 ‰/centuryや1.5 ‰/centuryにより近い値が得られた。
解析と並行して、低温研究所におけるダスト粒子濃度の測定を進め、深度26 mまで、約1/3の試料を測定した。ダスト濃度のデータには周期的なスパイクが見られ、年代決定の指標として有効であると期待できる。今後、ダスト濃度の分析を引き続き進めるとともに、トリチウム濃度や硫酸イオン濃度の測定により、年代決定を進め、上記の仮の解析結果をアップデートしていく予定である。
今年度もコロナ渦で分析作業の制限があったものの、ここまで作業が進んだことは大きな成果である。
　　
成果となる論文・学会発表等 Tsushima A， Miyahara M， Yamasaki T， Esashi N， Sato Y， Kayastha RB， Sherpa AJBL， Sano M， Fujita K (2021): Ice core drilling on a high-elevation accumulation zone of Trambau Glacier in the Nepal Himalaya. Annals of Glaciology， 62(85-86)， 353-359， doi:10.1017/aog.2021.15， 2021
江刺和音， 對馬あかね， 植村立， 飯塚芳徳， 的場澄人， 藤田耕史 (2021): Ice core drilling on a high-elevation accumulation zone of Trambau Glacier in the Nepal Himalaya. 日本地球惑星科学連合大会， Online， May 31-Jun 6， 口頭発表.
江刺和音， 對馬あかね， 植村立， 飯塚芳徳， 的場澄人， 藤田耕史 (2021): ネパール・ヒマラヤ， トランバウ氷河アイスコアの水安定同位体分析. 雪氷研究大会， Online， Sep 13-16， 口頭発表.