共同研究報告書


研究区分 開拓型研究

研究課題

低温水層における真の微生物機能の追究
新規・継続の別 開拓型(2年目/全3年)
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 渡邉友浩

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

小島久弥 北大低温研 助教

2

岩田智也 山梨大学 教授

研究目的 本研究は、塩川ダム湖(山梨県)の低温水層に繁茂する微生物種の機能解明を目指して立案された。しかし、COVID-19の影響で山梨県での調査を延期することとなり、初年度は釧路市の春採湖を調査地として選定した。よって、本研究の目的は塩川ダム湖と春採湖の低温水層に繁茂する微生物種の実環境中における真の機能解明となった。実環境中における微生物の遺伝子発現を直接解析するメタオミクス研究、微生物培養、生化学実験を連携してこの課題に取り組む。対象とする微生物種は世界中の様々な低温環境にも分布する。よって、得られた成果は幅広い低温環境における微生物学的物質循環の理解に貢献する。
  
研究内容・成果 本研究の初年度、春採湖の深部低温水層に未培養のアーキアが豊富に存在する可能性を見出した。この未培養アーキアは、Woesearchaeales目という系統群に属する。この系統群の未培養アーキアは世界各地の様々な環境に豊富に存在することが報告されており、近年特に注目を集めている微生物の1つである。Woesearchaeales目からは未だに培養株が得られていないため、その潜在的な代謝能力はゲノム情報に基づいて活発に議論されている。申請者らは、春採湖の深部低温水層に生息するWoesearchaeales目の未培養アーキアのゲノムとその遺伝子(RNA)発現を解析することで、その実環境中における機能を解析できると考えた。2021年2月と3月に、春採湖の湖心付近(水深約5.5 m)で野外調査を実施した。湖水の細胞からDNAとRNAを抽出するために、ポンプを使った採水および湖水ろ過システムを新たに構築した。これにより、細胞捕集からRNA分子の安定化処理に至る全作業行程を迅速に完了することができた。複数の水深由来の細胞からDNAとRNAを抽出することに成功し、その配列を解読した。様々な生物に由来する膨大な数のDNA断片からWoesearchaeales目のゲノムを再構築し、これに最新のシークエンス技術(ロングリード解析技術)を融合することでWoesearchaeales目においては2番目となる環状ゲノムを構築することに成功した。再構築ゲノムの情報解析の結果、Woesearchaeales目の未培養アーキアは、春採湖の深部低温水層において3番目に存在量が多い生物種であることが示唆された。ゲノムの遺伝子構成から、この機能未知のアーキアの代謝能力に関する知見が得られた。例えば、本菌は呼吸鎖複合体を持たないため発酵によってエネルギーを獲得すると考えられる。発酵基質としてヌクレオチドの一種を利用する可能性がある。これは一部のアーキアが持つルビスコ様酵素等によって段階的に変換されて酢酸を最終産物として生じると推定された。一連の反応で生じるエネルギーはATPとして保存されて細胞の合成反応に使われると考えられる。しかし、本菌のゲノムは生体を構成する主要な成分を合成する既知代謝経路の遺伝子の多くを欠いていることが示された。現在までにWoesearchaeales目の遺伝子発現情報を得ることに成功しており、解析の途上である。
 今年度は塩川ダム湖での野外調査を実施した(2021年9月)。春採湖で使った採水および湖水ろ過システムを改変することで、最大水深40 mを含む複数の水深からの細胞を捕集することに成功した。現在、水質とDNAとRNAの解析を進めている。解析対象の微生物種の培養株は得られており、培養実験を進めている。
 総じて、本年度は春採湖プロジェクトにおいて大きな成果を得た。特に、Woesearchaeales目の遺伝子発現情報は未だ発表されていないため、世界初の知見として学術的価値の高いものだと考えられる。
  
成果となる論文・学会発表等