共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

大気中で適用し得る雪結晶の形と成長条件ダイアグラムの確立(鉛直過冷却雲風洞実験)
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北海道教育大学札幌校
研究代表者/職名 名誉教授
研究代表者/氏名 高橋庸哉

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

佐﨑元 北大低温研

2

木村勇気 北大低温研

3

古川義純 北大低温研

研究目的  故中谷宇吉郎北大教授の先駆的な研究以来、多くの人工雪実験が行われてきた。これらは兎の毛やファイバー等の上に雪結晶を成長させたもので、大気中で落下しながら成長する天然雪結晶とは成長環境条件(温度場及び水蒸気場)を異にした。本申請で使用する鉛直過冷却雲風洞は雪結晶を一点に浮かせながら成長させ得る点が他に類を見ず、天然雲内での雪結晶の自由落下成長過程を再現できる。本研究では広い温度範囲で且つ水飽和以下で氷に対する過飽和度を変えて実験をこの風洞を用いて行い、多様な形態を有する天然雪結晶の成長環境条件を明らかにする。これにより、大気中で適用し得る雪結晶の形と成長環境条件を示すダイアグラムを完成させる。
  
研究内容・成果  新型コロナウィルスへの対応等により低温室の利用が年度前半は叶わず、9月中旬になって鉛直過冷却雲風洞を設置した。当初は雪結晶を浮遊成長させることが殆ど困難であった。低温室の温度分布が不均一で、風洞内外に大きな気温差が生じたためと考えられる。改良に1カ月余りを要したが、11月から本実験を開始し、データを取得できるようになった。また、冷凍機故障のため、2月に3週間ほど実験を中断した。
 雪結晶の浮遊成長実験を次の条件で実験を行った: 1)過飽和度: 氷飽和以上水飽和以下,2) 温度条件: 等温,3)実験温度域: -5°C~-12°C(-5°Cより高温領域は今後実験を行う予定である),3)成長時間:10分。当初計画では実験温度域を-15°C以下としていたが、新型コロナウィルス対応による中断が今後もあり得るため、データが一番不足している-12°C付近より高温から実験を始めることに変更した。
 雪結晶が採取され、顕微鏡撮影できたのは136例であった。このうち、併合していたもの(36例)及び雲粒が存在していたと考えられるもの(30例)、成長時間1~10分で1秒毎に計算された氷に対する過飽和水蒸気量の最大値と最小値の差が0.06g/m-3を超えているもの(19例)を除外した。これらを除いた51例を解析データとした。尚、雪結晶採取に至らなかった実験数は340例で、一番多いのは浮遊していた雪結晶を見失ってしまう事例であった(308例)。上記実験温度域では等方的結晶や針状・鞘状結晶が成長するが、実験中に結晶が揺れたり、回転したりして、実験者に結晶からの照明反射光が届かなくなるためである。
 気温に依る得られた結晶形の変化は次の通りであった: -5°C~-6°C 鞘・束状鞘・針,-6°C~-8.5°C 角柱・骸晶角柱,-8.5°C~-11.5°C 厚角板・骸晶角板,-11.5°C~ 角板。Kobayashi (1961)による静的雲箱を用いた実験結果では、-5°C~-6°C では中空プリズムが水飽和以下で成長し、針は水飽和以上の場合に限られる。本実験で針が水飽和以下で成長した。その理由として通風効果が考えられる(Keller and Hallett 1982)。しかし、針近傍の流れを規定しているのはa軸方向の長さであり、その効果は限定的である(Takahashi et al. 1991)。針状結晶の成長メカニズムに関する検討が必要である。また、-6°C~-10°C付近では鞘が成長するとされてきたが、軸比(2a/c)は0.3から1.3程の角柱または角板であった(多くは骸晶)。鞘は-6°C以上でのみ成長することが示された。
 雪結晶質量と氷に対する過飽和度の関係を累乗近似できた。等方的な結晶が成長した-10°Cで近似曲線のべき指数は1.85であった。水蒸気拡散に依る氷晶の気相析出成長速度を表すMaxwellの式から球形氷晶を仮定して得られる両者の関係はべき指数1.5であり、概ね一致した。
  
成果となる論文・学会発表等