共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

海洋低次生態系における食物網構造の決定と水銀濃縮過程の解明
新規・継続の別 継続(H30年度から)
研究代表者/所属 国立水俣病総合研究センター
研究代表者/職名 主任研究員
研究代表者/氏名 多田雄哉

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

丸本幸治 国立水俣病総合研究センター 室長

2

力石嘉人 北大低温研

研究目的 本研究では、1. 海洋低次生態系を構成する、動物・植物プランクトン、原生動物などの微小生物を対象に、アミノ酸の安定窒素同位体比を測定することで、各微小生物の栄養段階を数値化し、低次生態系における食物網の構造を明らかにすること、2. これと並行して、微小生物群中のメチル水銀濃度を測定することで、プランクトンへの水銀の生物濃縮と栄養段階との関係性を評価することを目的とする。これらの成果は、現在、情報が稀少である「海洋低次生態系における食物網構造および水銀の生物濃縮過程」の正確な理解に貢献できる。
サイズ別プランクトン中のメチル水銀濃度  
研究内容・成果 プランクトン試料のアミノ酸同位体比およびメチル水銀濃度データの蓄積のため、新たに2020年6月、7月、9月に熊本県の水俣湾中央において海洋観測を実施し、プランクトン試料を取得した。水中ポンプを用いて表層海水30 -1000 Lを採取し、異なる目合いのプランクトンネットを用いて、サイズの異なるプランクトン (10-100 μm、100-330 μm、>330 μm画分) を採取した。採取したプランクトンを遠心により濃縮し、凍結乾燥したものを、アミノ酸安定窒素同位体比分析試料とし、ポリカーボネートフィルターに濾過・捕集して凍結乾燥し、重量測定したものをメチル水銀分析用試料とした。

メチル水銀濃度分析は、プランクトンを硝酸による細胞分解・水銀抽出を行った後、エチレーション後、バブリングすることでHgをTenaxトラップに吸着させ、GC-AFSで分析した。その結果、7月に取得した10-100 μm、100-330 μm、>330 μm画分のプランクトンのメチル水銀濃度は、それぞれ5.3 ng/g、9.6 ng/g、27.5 ng/gであり、プランクトンのサイズが大きくなるに伴って単位重量当たりのメチル水銀濃度が上昇する傾向が見られた。これらの傾向は9月の試料でも見られた (100-330 μm画分: 67.7 ng/g、10-100 μm画分: 6.4 ng/g)。一方で、6月の試料に関してはプランクトン中のメチル水銀濃度はサイズに依存する傾向は見られなかった (10-100 μm: 15.8 ng/g、100-330 μm: 26.2 ng/g、>330 μm: 6.7 ng/g)。
一方で,アミノ酸の同位体比分析は,新型コロナウイルスの感染拡大防止措置により,低温研を訪問することが叶わず,実施することができなかった。試料はすでに低温研に郵送済みであるので,本共同研究の低温研側の受け入れ教員(力石教授)により,今年度中,もしくは,来年度の始めの測定が予定されている。

本研究では、低温研の改良型GC-IRMS、本研究所の高感度メチル水銀分析を用いた解析を組み合わせることで、低次生態系を構成する微小生物群の栄養段階とメチル水銀蓄積・生物濃縮との関係を評価している。今後はこれらの研究結果をまとめ、論文化を進めていきたい。
サイズ別プランクトン中のメチル水銀濃度  
成果となる論文・学会発表等