共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

イヌイット衣類の低温特性
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 杉山 慎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

日下 稜 北大低温研 学術研究院

2

山口 未花子 北大文学研究院 准教授

研究目的 極域に住む先住民族イヌイットの毛皮の衣類に関する研究は,専ら社会学,人類学的視点から行われてきた.そのため,防寒性や透湿性といった物性に関する研究はほとんど見られない.イヌイットが住む,地域は人類が住む土地では,最も寒い場所に位置し,その衣類の断熱性能や透湿性能を明らかにすることは,人類学的意義はもちろんのこと,北海道を始めとして寒冷地での衣類の在り方を考えるうえでも有意義である.この毛皮の衣類を使用した,犬ぞりによる狩猟の文化がいつまで続くかは不透明である.一度失われた文化が,復活することは無く,早々に記録として残すことが我々に求められている.
  
研究内容・成果 北グリーンランドにて最も寒い時期に衣類として用いられる,ホッキョクギツネの毛皮を用いてダウンジャケットとの保温性・透湿性の比較実験を行った.

透湿度試験方法
アクリル容器に水を張り,温度調節器を用いて,ヒトの皮膚温に近い35°Cに保温.容器の側面及び底面はスタイロフォームで断熱した.水蒸気のみを透過させるため,パンチ穴を開けたステンレス鋼板にセロファン紙を張り付け,アクリル容器に蓋をした.その上に試験体となる毛皮もしくはダウンジャケットを載せ,低温室(-20°C)で約1時間放置した.
試験前後の水量及び試験体の質量変化から,水の透湿量,および試験体への吸水量を測定,単位時間単位面積当たりの透湿量を算出した.
毛皮はダウンに対して,透湿度は約3倍であることがわかった.

保温性試験方法
樹脂製ビーカー(内容量500 ml)に35°Cの水を入れ,底面および側面を断熱した上,試験体で蓋をし,-20°Cの低温室に放置.約3時間の水温変化を測定した.
同程度の厚さの,毛皮とダウンはほぼ同じ保温性を示した.

  
成果となる論文・学会発表等 日下稜,杉山慎,原田亜紀.北グリーンランドで使用されている毛皮衣類の製法とその寒冷地性能,北海道の雪氷,No.39,81-84,2020.
R. Kusaka, Shin Sugiyama and Aki HARADA. Breathability and Thermal Insulation Performance of an Arctic Fox Fur used for Clothing in North Greenland, The 11th Symposium on Polar Science, 2020.11.16
日下稜,杉山慎,原田亜紀.北グリーンランドで使用されるホッキョクギツネ毛皮衣類の透湿・保温性能,雪氷研究大系2020・オンライン,2020.11.17