共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

湿原における水系腐植物質の動態に関与する微生物群の解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 東邦大学理学部化学科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 千賀有希子

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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福井学 北大低温研

研究目的 植物遺骸が厚く堆積する泥炭湿原は,溶存有機物(DOM)のソースとなる重要な場である.この湿原の中に存在する池溏は, 水系腐植物質(AHS)を主とするDOMの流入を直接受け,独特の生態系を育むといわれている.本研究では,池溏におけるAHS動態を特徴づけるために,1. 尾瀬ヶ原池溏におけるAHSの量と質(成分)を明らかにする,2. 水系腐植物質の動態に関与するバクテリアの分子生物学的解析を行い,バクテリア群およびその代謝機能を明らかにすることを目的とした.
  
研究内容・成果 1.方法
2017年8月に採水した尾瀬ヶ原39池溏の表層水を用いて検討した.DOM炭素濃度は全有機炭素測定装置(TOC-2300, 平沼産業)を用いて,AHSは樹脂吸着-炭素量測定法(Tsuda et al. 2012)で測定を行なった.またAHS成分は,三次元励起蛍光スペクトル(EEM)-PARAFAC法によって検出した(水中溶存有機物蛍光測定装置Aqualog,HORIBA Scientific).この方法では,水サンプルの発光状態をある範囲の励起波長と蛍光波長において連続的に蛍光強度を測定することで網羅的に蛍光特性をもった成分を知ることができ(EEM),さらに多変量解析PARAFACによって重なり合ったピークを分解し,個々の成分を検出することができる.EEMを測定する前に,試料中の懸濁物による光の錯乱を防ぐため,孔径0.22 µmのフィルター(Millex GV Filter Unit,Millipore)でサンプルをろ過した.EEMの測定条件は励起波長(Ex)=220〜600,蛍光波長(Em) = 210〜620 nm,バンド幅3 nm,積分時間を0.5秒に設定した.セルや水試料による吸光を補正するため,インナーフィルター補正を行った.その後,レイリー散乱による影響が考えられたため補正を行った.試料と同様の条件で測定した10 µg/L硫酸キニーネ溶液のEx/Em=350/450付近のピークにおける蛍光強度を10 QSU(Quinine Sulfate Unit)として規格化した(眞家 2009).EEMデータセットからDOM成分を統計的に分離するために個々の成分のピークの検出を行うため多変量解析のひとつであるPARAFAC(Parallel factor analysis)を用いた.PARAFAC解析はSolo+Mia(Eigenvector Research,ver7.9.0.529)を用いて,解析を行った.モデルの信頼性を示す基準としてCore Consistencyを用い,Core Consistencyが60以上となった成分を分離した.
2.結果と考察
 DOM炭素濃度は2.5〜16.6 mgC/Lであり,平均6.6 mgC/Lであった.AHS炭素濃度は1.1〜12.8 mgC/Lであり,平均4.5 mgC/Lであった.DOMに占めるAHSの割合は44.4〜80.0 %であり,平均66.5 %であった.尾瀬ヶ原池溏においてAHSがDOMの大部分を占めるとわかった.
これまでに測定された尾瀬ヶ原池溏のEEMデータと今回得られたEEMデータをPARAFACにより解析した結果(n=239),3種類のAHS成分が検出された;AHS-1(Ex/Em=<252, 321/435 nm),AHS-2(Ex/Em=<252, 339/494 nm),AHS-3(Ex/Em<252/396).AHS-1の蛍光強度は5.4~59.1 QSUであり平均21.1 QSU,AHS-2の蛍光強度は3.0〜40.6 QSU平均12.7 QSU,AHS-3の蛍光強度は4.9〜29.0 QSU平均11.4 QSUであった.いずれも淡水域で広くみられる腐植様物質の成分と考えられた.
 なお,コロナ感染者の拡大にともない,尾瀬ヶ原調査と研究室での実験が厳しく制限された.そのため水系腐植物質の動態に関与するバクテリアの分子生物学的解析に関しては十分な成果を得ることができなかった.
  
成果となる論文・学会発表等