共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

冬季の常緑樹における光合成関連遺伝子の発現制御機構の解明に向けて
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 京都府立大学生命環境科学研究科
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 佐藤壮一郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

川口晃平 京都府立大学生命環境科学研究科 大学院生

2

向江和輝 京都府立大学生命環境科学研究科 大学院生

3

田中亮一 北大低温研

4

高林厚史 北大低温研

5

伊藤寿 北大低温研

研究目的 これまでの共同研究により、PacBio sequelを用いたIso-seq解析により、約1万個のイチイの全長mRNA配列、およびそのタンパク質アミノ酸配列を明らかにしてきた。昨年度は、秋から春まで毎月サンプリングしたイチイの葉からRNAを抽出し、イルミナの次世代シークエンサーでその配列を網羅的に解析し、生データを得た。
本研究ではこの配列データを詳細に解析し、1) 冬季の常緑樹における様々な遺伝子の全体的な発現変動、2) 代謝関連遺伝子の発現の変化、3) 夏から冬にかけての光合成制御遺伝子(光酸化的ストレスへの防御遺伝子)の発現変動などを明らかにし、冬季常緑樹の生存戦略を考えることを目的とする。
  
研究内容・成果 本年度は、前年度に得たイチイのRNA seqのデータを用いて、主にそのデータ解析(トランスクリプトーム解析)を行った。具体的には、9月から翌年の4月まで、つまり秋から春にかけて、イチイの葉を1か月ごとにサンプリングし(n=3)、その葉から抽出したRNAについて次世代シークエンサーを用いて解析した。そして、前年度のIso-seq解析から得られた全長cDNA配列を鋳型として、ショートリードを用いて解析したRNA seqデータをマッピングすることで、各遺伝子(転写単位)の発現量を定量した。
まず、同じ時期に同じイチイの木からサンプリングした(別々の)葉を用いた各3反復に関しては、高い再現性が認められた。これは解析の信頼性が高いことを示唆している。
次に、主成分分析(PCA)を行った結果、9月と10月(秋)、12月と1月(冬)、3月と4月(春)のサンプルがそれぞれよく類似していることが明らかになった。なお、11月は秋と冬のサンプルの間に、2月は冬と春の間に位置していた。逆に言えば、秋と春のサンプルに関しては、日長や気温は比較的似ているものの、トランスクリプトーム(細胞中に存在する全てのmRNAの発現パターン)は大きく異なることが明らかになった。これらの結果は、植物のトランスクリプトームが季節によって大きく変動すること、それは日長や気温による変動だけでは説明できないこと、を強く示唆していた。
現在は、秋と冬と春でどのような遺伝子の発現量が大きく変動しているのか、もしくは、どのような代謝系の遺伝子群の発現量が大きく変動しているのか、を調べている。一例として、冬にその発現量が飛躍的に増えることが知られているELIP遺伝子に関しては私たちのデータにおいても、秋から冬にかけて飛躍的に発現量が増大し、春にかけてその発現が顕著に減少するパターンが認められた。この結果は本研究の解析の信頼性を示すものである。今後の解析から寒冷圏の常緑樹の厳冬期の光合成防御機構の全体像が見えてくるのではないかと期待している。
  
成果となる論文・学会発表等