共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

現地観測と数値モデルの統合活用による札幌の雪氷汚染の実態解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 気象庁気象研究所
研究代表者/職名 主任研究官
研究代表者/氏名 庭野匡思

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

大河原 望 気象庁気象研究所 室長

2

谷川朋範 気象庁気象研究所 主任研究官

3

梶野瑞王 気象庁気象研究所 主任研究官

4

橋本明弘 気象庁気象研究所 主任研究官

5

青木輝夫 国立極地研究所 特任教授

6

的場澄人 北大低温研

研究目的 雪氷圏では、近年、積雪期間減少、氷河・氷床質量損失、及び降水の雨雪比変化などに代表される環境変化が急速に進行している。その中で、光吸収性不純物(ブラックカーボンやダストなどのエアロゾル、及び雪氷微生物など)の雪氷面への沈着(雪氷汚染)の影響の全容がほぼ未解明な状況にある。本研究では、低温科学研究所露場における積雪断面観測、熱収支観測、積雪不純物観測を継続すると同時に、最新の数値モデル(積雪変質モデルと領域大気化学輸送モデル)を活用して、それらの点の解明に挑む。
  
研究内容・成果 低温科学研究所露場において地上気象・放射連続観測を実施すると同時に、新型OPC(Optical Particle Counter)を導入して地上付近の大気中エアロゾル粒径分布のモニターを行った。地上気象・放射連続観測はオープンデータとして研究コミュニティに公開した [3]。冬期間には、地上設置型改良全天分光日射計GSAFによる積雪表面付近の積雪粒径・光吸収性不純物(ブラックカーボンやダストなど)濃度の遠隔測定 [5]、積雪断面観測、及び積雪サンプリングを実施した。積雪サンプルは気象研に冷凍状態で輸送し、雪氷汚染を引き起こす光吸収性不純物濃度の測定を実施した [6]。これらのデータの解析を進めたところ、GSAFを用いた光吸収性不純物濃度の遠隔測定の推定精度を更に向上させるには、積雪内部における光吸収性不純物の混合状態(内部混合 vs 外部混合)を現実的に考慮する必要があることが分かった [5]。この混合状態は、気候状態、雪質、あるいは光吸収性不純物の種類・サイズなどによって変化することも分かった [5]ので、今後はその知見を積雪モデルに反映させるためのパラメタリゼーション構築を進める。

我々の本観測サイトは、昨年度・一昨年度報告の通り、WCRP Grand Challenge Melting Ice & Global Consequencesに貢献するために立ち上げられた積雪モデル相互比較プロジェクトESM-SnowMIP(http://www.climate-cryosphere.org/activities/targeted/esm-snowmip/about)の1次元モデル検証サイトにアジアから唯一選定されている。今年度には、積雪モデル相互比較の最初の評価結果が論文出版された [1]。本低温研共同研究の枠組みで我々が札幌において取得してきた気象・雪氷観測データを用いて開発・高度化してきた積雪変質モデルSMAPは、グリーンランド氷床に続いて、南極氷床にも適用され有効性を示した [4]。札幌を拠点として我々が取り組んできた観測的研究と、それに基づいて実施してきた積雪モデリング研究を総説論文 [2]にまとめて解説した。

積雪中の光吸収性不純物の存在は融雪を加速させ、アイス・アルベド・フィードバックなどを介して近年の温暖化を助長していると考えられているが、その時空間変動の実態は依然として不透明である。一方で、我々が取得している積雪中光吸収性不純物観測データは10年以上の長期間に渡ることから、世界的に見ても非常に貴重である。また、本年度は、積雪変質モデルSMAPと最新の領域大気化学輸送モデルNHM-Chemの結合に関わる開発を更に進めた。現在、本観測サイトにおいて取得した光吸収性不純物データを用いてNHM-Chem-SMAP検証を実施すると同時に、論文投稿準備を行っている。光吸収性不純物に関して信頼のおける現地観測とモデル研究をハイレベルで実施している点で、本研究グループは世界的に大いに存在感を示している。今後も、本共同研究の枠組みを有効活用して、更にその価値を高めていく。
  
成果となる論文・学会発表等 [1] Menard, C. B., et al. (2020), Bull. Amer. Meteor. Soc., E61-E79, https://doi.org/10.1175/BAMS-D-19-0329.1. (Niwano: 23rd of 32 authors)

[2] 庭野匡思, 青木輝夫 (2021), 気象研究所における積雪モデリング研究, 大気化学研究, 44, 044A03.

[3] Niwano, M., Aoki, T., Tanikawa, T., Ohkawara, N., Matoba, S., and Kodama, Y. (2020), PANGAEA. https://doi.org/10.1594/PANGAEA.919800

[4] 庭野匡思, 橋本明弘, 津滝俊, 本山秀明, 平沢尚彦, 阿部彩子 (2020), 2020年7月12日-7月16日, JpGU-AGU joint meeting 2020, virtual, MIS15-03.

[5] Tanikawa, T., Kuchiki, K., Aoki, T., Ishimoto, H., Hachikubo, A., Niwano, M., Hosaka, M., Matoba, S., Kodama, Y., Iwata, Y., and Stamnes, K. (2020), J. Geophys. Res. Atmos., 125, e2019JD031858, https://doi.org/10.1029/2019JD031858.

[6] 對馬あかね, 庭野匡思, 青木輝夫, 大河原望, 谷川朋範, 的場澄人, 他 (2020), JpGU-AGU joint meeting 2020, virtual, ACC39-06.