共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

衛星観測で捉えた東南極における氷河流動と海氷状態変化の相互作用
新規・継続の別 継続(H30年度から)
研究代表者/所属 日大工学部
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 中村和樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

山之口勤 RESTEC グループリーダー

2

青木茂 北大低温研

3

杉山慎 北大低温研

研究目的 メルツ氷河や白瀬氷河等の流動場および接地線を含む流動環境を、衛星観測されたデータを解析することにより導出する。とくに、Calving端の前後に注目して、主として合成開口レーダ(SAR)を用いることにより、氷河およびそれを取り囲む海氷の流動環境の時間的かつ空間的変動に関する考察を目指す。
  
研究内容・成果  白瀬氷河は南極の他の氷河と比較しても流動速度が速いことで知られており,南極氷床の消耗量の把握のために氷河の流動速度の監視は重要である.著者らにより陸域観測技術衛星2号(ALOS-2)搭載フェイズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ2型(PALSAR-2)の振幅画像に画像相関法を適用することにより,白瀬氷河の流動速度が推定可能であることを示してきた1).本発表では,PALSAR-2観測に同期する白瀬氷河上に設置されたアイスレーダ(ApRES)に搭載されたGPSによる緯度・経度情報から流動速度を算出し,PALSAR-2データに画像相関法1)を適用することにより推定された流動速度を検証した.
 使用データはPALSAR-2レベル1.1のSLC(single-look complex)データであり,はじめに画像ペアをENVIによりサブピクセルでの位置合わせ(標準偏差0.1ピクセル以下)を実施した.つぎに,レンジに1ルックおよびアジマスに2ルックのマルチルック処理を行った後にグランドレンジ画像へ変換し,ピクセルスペーシングを8 mにリサンプリングした.処理後の実効上の推定誤差は,サブピクセルの位置合わせにより0.1 pixel、流動速度にして0.03 km a–1とみなせる.画像相関法により氷河の流動速度を調べることができた画像ペアは,2018年7月〜2019年8月において20ペアである.また,PALSAR-2の画像取得と同期するようにApRESに搭載されたGPSによる緯度・経度情報をグランドトゥルースとし,ヒュベニの距離計算式に基づいて2地点間の距離として算出して年当たりの流動速度に変換した.
 白瀬氷河の流動速度について,ApRESによる計測結果とPALSAR-2による推定結果を比較した結果,RMS誤差が0.046 km a–1であった.PALSAR-2による流動速度の推定結果の実効上の誤差が0.03 km a–1であることから,流動速度の計測結果と調和的であった.1月〜3月を夏期,4月〜6月を秋期,7月〜9月を冬期,10月〜12月を春期とした場合,各季節における流動速度の計測結果と推定結果のRMS誤差は,夏期(5ペア)が0.024 km a–1,秋期(6ペア)が0.067 km a–1,冬期(7ペア)が0.033 km a–1,春期(2ペア)が0.019 km a–1であり,秋期は他の季節と比較して2倍以上の誤差となった.
  
成果となる論文・学会発表等 中村和樹, 青木茂, 山之口勤, 田村岳史, 土井浩一郎: PALSAR-2による白瀬氷河の流動速度の検証, 雪氷研究大会(2020・オンライン), オンライン, 2020年11月.

栁沼将太, 中村和樹: 白瀬氷河の流動速度推定における画像相関法の偏波特性, 令和2年度情報処理学会東北支部研究会, オンライン, 2021年1月.

中村和樹: リモートセンシング技術がもたらす地球環境と福島の未来, 財界ふくしま, 2021年2月号, pp. 103-111, 2021年1月.