共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
撹乱が植生動態へ及ぼす影響:撹乱面積の頻度分布がべき乗分布に従う場合 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 滋賀大学 |
研究代表者/職名 | 助教 |
研究代表者/氏名 | 中河嘉明 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
横沢正幸 | 早稲田大人間科学学術院 | 教授 |
2 |
原登志彦 | 北大低温研 | 教授 |
研究目的 | 自然撹乱は遷移を初期化し、世界的な炭素循環において中心的な役割を果たす。近年の研究によって撹乱された面積の頻度分布はべき乗分布に従うことが報告されている。これは撹乱面積分布が正規分布に従うことを仮定した場合よりも、大規模な撹乱が高確率で発生することを意味する。本研究では、これらの撹乱プロセスのべき乗則を考慮した撹乱モデルを作成し、空間明示型個体ベースモデルに組み込む。さらに、これらのべき乗分布のパラメータ(冪指数と最大値)を変化させてシミュレーションすることで、様々な撹乱条件下における植生ダイナミクスを調べる。 |
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研究内容・成果 | 植生動態モデルにべき乗分布に従う撹乱面積を導入して植生動態を調べた研究は少ない。そのような数少ない研究としてFisher et al. (2008) Ecol. Lett. 11, 554-563がある。彼らは植生のバイオマス総量は冪指数によって変化しないと結論した。しかし、彼らのシミュレーションモデルはギャップ型の個体ベースモデルであるため、撹乱されたパッチに隣接するパッチの植生の変化を考慮できていない。そこで、本研究で、我々は撹乱プロセスを導入した空間明示型の個体ベースモデルを用いて、さまざまな冪指数の条件下での植生ダイナミクスを調べた。 我々の作成した空間明示型個体ベースモデルでは植物個体の成長や枯死や新規個体参入をシミュレーションすることができる。また、個体間競争プロセスが組み込まれており、近くに存在する植物個体同士が資源を巡って競争する。競争が激しくなると成長と新規個体参入は抑制され、枯死は促進される。さらに、撹乱プロセスについては、Fisher et al. (2008)のモデルを改良してシミュレーションモデルに導入した。このモデルでは撹乱が生じたエリアの植物個体は枯死する。またモデル内では撹乱面積や撹乱の発生期間の頻度分布はべき乗分布に従う。この空間明示型個体ベースモデルを用いて、撹乱面積分布の冪指数を変化させて、植生ダイナミクスをシミュレーションした。 我々のシミュレーションの結果では、Fisher et al. (2008)の結果と異なり、撹乱面積分布の冪指数に伴って、植生のバイオマス総量は変化した。また、冪指数に伴う植生のバイオマス総量の変化の仕方は、植生のリカバリー様式(新規植物個体の参入様式)によって異なった。新規参入個体の数が時間的に一定の条件では、冪指数が減少するにつれてバイオマス総量は増加した。一方、新規参入個体数が親木数の増加に伴って増加する条件では、冪指数が減少するにつれてバイオマス総量は減少した。この結果は、バイオマス総量の時間変化のシミュレーションと理解をするために、撹乱面積のべき乗分布の冪指数と撹乱後の植生のリカバリー様式が重要であることを意味する。 |
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成果となる論文・学会発表等 | Nakagawa, Y., Yokozawa, M., Hara, T. Effects of natural disturbances on vegetation dynamics in the case of a power-law disturbed-area size distribution. (under review) |