共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

オホーツク海におけるカムチャツカ半島からの河川流入の役割
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 国立研究開発法人海洋研究開発機構
研究代表者/職名 主任研究員
研究代表者/氏名 美山透

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

三寺史夫 北大低温研

研究目的 カムチャツカ半島河口から流出した河川がオホーツク海の水塊・循環に果たす役割を、河口域や沿岸のシミュレーションのために開発されたFVCOMを用いて調べる。河川水の輸送を担う過程は、河口から沿岸流、沿岸流による輸送、主な海流であるカムチャツカ海流や沖への広がりと、段階に応じて空間スケールが大きく変わる。FVCOMは非構造格子なので、水平分解能が可変であり、沿岸スケール(格子サイズ 〜km)〜オホーツク海内部の渦解像(〜10km程度)まで変化させることができる。河川有り・無し実験により、カムチャツカ半島から流出する河川水の挙動と高密度陸棚水(DSW)形成への影響を調べる。
図1 図2 
研究内容・成果 カムチャツカ半島河川水の海洋における輸送過程を見るために、沿岸海洋モデルを用いて数値実験を行った。河川の流入に関しては、JRA55再解析による推定JRA55-doを用いた。河川の流入を与えた場合と河川の流入を与えない場合を比較した。カムチャツカ半島西部からの河川流入有り場合、流入無しの場合に比べて最大1以上の塩分低下が見られた(図1a)。塩分の低下は、河川が直接に流入するオホーツク海東部だけでなく、オホーツク海北部にも広がり塩分が0.3以上低下する所もあらわれる。一方、アムール川を含むオホーツク海西部の河川流入の効果を見ると(図1b)、その流入量の大きさから塩分低下が大きいものの、影響はオホーツク海西部にとどまる。オホーツク海北部の河川の効果はDSWが生成するオホーツク海北部を中心に、一部西部に広がる(図1c)。これらの結果は、オホーツク海の反時計回りの沿岸流のため、カムチャツカからの河川水流入は、半島周辺にとどまらず、DSW形成海域を含む沿岸域の広範囲に影響を及ぼすことを意味する。
カムチャツカ半島からの河川流出水が到達するオホーツク海北部はDSW形成の中心海域であり、DSW塩分を通して海洋中層にその影響を伝える。26.8-27.2ポテンシャル密度層(水深300m程度)おける塩分差の季節変化を見ると(図2)、カムチャツカ半島からの河川水流入有無の場合に、オホーツク海やアムール川からの河川流入有無よりもDSWが形成される冬季に海洋中層の塩分に対する影響が大きいことがわかった。特筆すべきことは、カムチャツカ西岸の河川の効果は、アムール川を含むオホーツク海西部の河川よりDSWおよび中層への影響が大きいことである。これは、アムール川からの流出水が海氷生成の中心であるオホーツク北部沿岸にほとんど到達しないためである。また、オホーツク海北部河川からの寄与はアムール川と同程度であり、その結果、カムチャツカ西部河川は中層塩分に対して最も大きな変化をもたらすことが示唆される。


図1: 沿岸海洋モデルによる数値実験。河川を入れた場合と河川を入れない場合の海面塩分の差(8月)。対象河川は(a)カムチャツカ西岸(オホーツク海東部)、(b)オホーツク海西部、(c)オホーツク海北部

図2: 河川を入れた場合と河川を入れない場合のポテンシャル密度26.8-27.2層の塩分の季節変化の差。対象河川はカムチャツカ西岸(青線)、オホーツク海西部(赤線)、オホーツク海北部(緑線)。
図1 図2 
成果となる論文・学会発表等 (1) 三寺 史夫, 美山透, 白岩孝行, 史穆清, 小松謙介, 立花義裕, 中田聡史, 西川はつみ, カムチャツカ半島からの淡水供給が制御するオホーツク海と北太平洋の子午面循環, JpGU 2020, 2020/7/14

(2) Humio Mitsudera, Toru Miyama, Hatsumi Nishikawa, Impacts of riverine discharges on the overturning circulation and material circulation in the Sea of Okhotsk and the North Pacific Ocean, JpGU 2020, 2020/7/15