共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

ドローン空撮と船舶を用いた河川フロントの海面・海中・大気の同時観測
新規・継続の別 継続(H30年度から)
研究代表者/所属 九州大学応用力学研究所
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 木田新一郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

伊佐田智規 北大北方生物圏フィールド科学センター 准教授

2

田中潔 東大大気海洋研究所 准教授

3

吉田聡 京大防災研究所 准教授

4

阿部稜 九大総理工 修士2年

5

三寺史夫 北大低温研

6

中村知裕 北大低温研

研究目的 厚岸湖から厚岸湾にかけてドローン観測と船舶観測を同時に実施し、海峡を通じた海水と淡水の交換メカニズムの解明を目指す.厚岸沿岸域の海洋生態系は潮汐に合わせて厚岸湖から流出する河川水や湖水の影響を強く受けていると考えられているが、淡水がどのようなメカニズムで流出し、海水と混合しているのか不明であった.これまでの観測から河川フロントが海峡部から厚岸湾東部にかけて形成され、フロント上に渦が数多く出現することが明らかになってきた.そこでドローン空撮と同時に大気・船舶観測を実施し、河川フロントの海面・海中・海上を観測し、河川フロントに出現する渦の形成メカニズムを明らかにすることを目指す.
  
研究内容・成果 本年度はコロナによる影響で厚岸にて観測を実施できなかった.そこで(1)厚岸大橋付近で昨年度に実施したドローン観測で取得した空撮画像の画像解析を進め、そして(2)オンライン会議を実施することで今後の観測計画・手法の改善点について議論した。
厚岸大橋では河川水・湖水・海水の3つの水塊による2つのフロントが出現、そして合流していることが空撮画像から確認できた。そこでドローンをホバリングさせることで3秒おきのタイムラプス撮影(時間変化を捉えた画像)から流速場を求めることに挑戦した。これまでの観測では海水・海色などのデータが取得できていたが、流速場は不明なままであった。流速を求めるうえで、衛星観測や室内実験等で広く活用されている画像相関法を応用することにした。画像相関法とは、同じ場所で連続して撮影した画像を利用し、空間相関から画像の変化分を抽出することで、移流速度を求める手法である。今回の取得画像では、フロント上に形成された渦に沿って泡が存在していたことから、渦の空間スケール(3m)で空間相関を取ったところ、フロント上では10cm/s程度の流れが存在することが明らかになった。これは一昨年度、厚岸大橋にて実施した流速計を用いた観測データとも整合的であった。画像相関法が流速場を求める手法として有効であることが明らかにできた。空間相関を行う空間スケールを変化させたところ、渦よりも小さいスケールでは形状の変化が速すぎるために5秒間隔の画像からは妥当な流速場を得ることができなかった。しかし河川フロントのスケールを用いるとフロント全体の位置が時間とともに南北に移動している様子を捉えることができた。ドローンのホバリングする際のブレの影響は、風が弱ければ画像の解像度以下になることも確認できたが、海色の空間変化が小さい領域では、相関をとることが難しいため流れ場が求まらなかった。厚岸湾に出現する河川フロントでも同様の手法で流れ場を求めることができるのか、今後検証を進める必要がある。
オンライン会議では、来年度以降に厚岸湖・厚岸湾でのドローン観測に再挑戦することについて議論を行い、現計画の改善点の抽出を進めた。まず画像相関法によってもとめた流速場の検証としてADCPによる流速観測を同時に行うことが提案された。この場合、船舶が2隻必要になり観測の人員を増やす必要がある。また現在、採水と水中分光放射計による定点観測にとどまっている海色・植物プランクトンデータの空間分布を取得するため、クロロフィルa濃度計を用いた曳航観測の実施が提案された。そして観測データの検証を行ううえで可視画像だけでは定量的なデータへの変換が難しいことから、スペクトルカメラを用いた観測の重要性も指摘された。来年度、実施する予定の観測では上記の3点を改善した形で取り組むことを確認した。
  
成果となる論文・学会発表等 阿部稜 「画像相関法による河川フロント上の速度場の推定」,九州大学総合理工学府大気海洋環境システム学, 修士論文, 2021
阿部稜、木田新一郎、伊佐田智規、田中潔、中村知裕、三寺史夫「ドローン空撮による河川水の流出速度の推定」、JpGU (Japan Geoscience Union)
阿部稜、木田新一郎、伊佐田智規、田中潔、中村知裕、三寺史夫「ドローン空撮による河川水の流出速度の推定」、海洋学会秋季大会