共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

海氷による物質の取り込み過程の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 海洋研究開発機構
研究代表者/職名 ポスドク研究員
研究代表者/氏名 伊藤優人

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

豊田威信 北大低温研

2

的場澄人 北大低温研

研究目的 海氷に物質が取り込まれると、それらは海氷の漂流と共に輸送され、海氷融解時に海中へと放出される。この海氷の消長に伴う物質循環は極域海洋の植物プランクトンの大増殖などの生物過程にも強く寄与すると指摘されている。本研究では、この物質循環の初期過程である海氷による物質の取り込みに着目し、海氷が何を・どれだけ・どのようにして取り込んでいるのかを、アラスカ沿岸域や北海道オホーツク海沿岸域及び沖合で採取した海氷試料の分析から明らかにする。
  
研究内容・成果 海氷はその生成・成長過程によって結晶構造が異なるため、低温実験室において海氷の薄片を作成し、その結晶構造を解析することで成長履歴が明らかとなる(薄片解析)。そこで、結晶構造により特徴付けられる海氷の各層ごとに含有粒子の粒度や量を測定することで、どのような粒子がどのくらい、どのようにして海氷に取り込まれたかを推定できる。また、様々な場所(氷況)で採取した海氷の解析・分析を通じて、海氷による粒子の取り込み過程について一般的な議論ができる。なお、海氷内の含有粒子の分析として、粒度分布および含有量をコールターカウンターを用いて測定する。

 本研究課題では、2017および2019年にアラスカ最北部のエルソンラグーンにて実施したアラスカ大学等との共同海氷観測により採取した海氷(定着氷)コアと、2019年および2020年にオホーツク海北海道沖合にて実施した海上保安庁および北海道大学低温科学研究所の共同観測により採取した海氷(浮氷)の試料を対象とした。薄片解析による海氷の生成・成長履歴の推定は実施したが、新型コロナウイルスの感染拡大状況の悪化に伴い、コールターカウンターを用いた含有粒子の測定は実施できなかった。しかしながら、アラスカで採取した海氷コアについては、本研究課題に先だって含有粒子の分析作業を実施済みであったため、このサンプルについて薄片解析と含有粒子の分析結果を比較した。

 2017年に採取した海氷(全3サンプル)は全層(厚さ1.3 m程度)において汚れ層を含まず、含有粒子の少ない無色の氷から成っていた。結晶構造より、この海氷は静穏な環境で生成され、熱的に下方成長をした氷と示唆された。一方で、2019年に採取した海氷では、厚さ1.3 – 1.6 mの全5サンプル全てが汚れ層を含み、且つその層の厚さは約30 cm から 1.4 m までサンプルごとに異なった。薄片解析の結果、汚れ層は擾乱環境下で海氷が生成したことを示唆するグラニュラーアイス、その他の層は海氷が熱的に下方成長したことを示すカラムナーアイスで構成されていた。またコールターカウンターによる含有粒子の分析結果から、汚れ層の粒子はラグーン底の堆積物であることや、汚れ層に含まれる粒子の量は他の層に含まれる粒子の量よりも1オーダー程度大きいことが明らかとなった。この結果から、海氷結氷期において、擾乱環境下で海氷(フラジルアイス)が生成され、それらが海底堆積物を捕獲し、その後にフラジルアイスが固化することで海氷内に堆積物由来の粒子が取り込まれることが示唆された。一方で海氷が静的な熱成長をする過程に関しては海氷内への粒子の取り込み対する寄与が少ないことも示唆された。ただし、熱的成長によって海氷の底部に構成されるスケルタルレイヤーにおいては、海氷と下層の海との間で海水の交換があり、これによって海氷内に粒子が供給される可能性が見いだされた。
  
成果となる論文・学会発表等 Masato Ito, Andrew R. Mahoney, Chris M. Polashenski, Takenobu Toyota, Sumito Matoba, Takashi Kikuchi, “The relation between sea ice stratigraphy and particle concentration in an Alaskan coastal lagoon”, The 11th Symposium on Polar Science, Online, 16 November – 18 December 2020.