共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	マルチシーケンス法に基づくグイマツ遺伝資源のコアコレクション構築の試み
新規・継続の別	継続（H28年度から）
研究代表者／所属	北海道立総合研究機構林業試験場
研究代表者／職名	研究主任
研究代表者／氏名	石塚航

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	原登志彦	北大低温研
2	小野清美	北大低温研

研究目的	北方系針葉樹カラマツ属のダフリアカラマツ複合群（Larix gmelinii complex）はユーラシア大陸極東部に広く分布し、寒冷環境への幅広い適応ポテンシャルがある。このうちの一種グイマツは、最終氷期に北海道でも分布が認められたものの、地域絶滅した経緯がある。一方、現在は千島列島とサハリンから北海道へとグイマツが導入されて林業用樹木の1種として遺伝資源利用されている。これまでの研究において本複合群が有する遺伝的多様性を明らかにし、遺伝的系統解析の枠組みが確立できたことから、本共同研究では、グイマツ全遺伝資源に解析対象を拡大し、その遺伝的系譜を明らかにするとともに、有用な遺伝資源のコアコレクション構築を試みる。

研究内容・成果	本研究の遺伝解析の対象は、①形質が優れるとして北海道で登録され、利用されているグイマツ精英樹98系統のクローンのべ121個体、②精英樹としての登録には至らなかったものの有用な遺伝資源として保存されているグイマツ6系統（6個体）、③1998年の「日ソ林業技術交流ならびに有用遺伝資源収集調査」において、南サハリン9ヶ所で収集されたグイマツ種子に由来する次代39個体、④北海道大学総合博物館の植物標本庫に所蔵されているグイマツ標本のべ26点、⑤1772年、1798年にそれぞれ色丹島から持ち込まれたとしてルーツが確かな銘木3個体、ならびに外群としてニホンカラマツとした。①②を精英樹群、③を収集資源群、④⑤を標本群と分類した。これらの材料を用いて、昨年度の共同研究において確立させた、多検体、かつ、複数領域の迅速・効率的な配列決定技術であるマルチシーケンス法を実施した。遺伝解析の対象領域は、系統仕分けにインフォマティブな葉緑体15領域と、樹種確認に優良なミトコンドリア2領域とした。解析にあたっては、標本でも確実に配列決定が行えるよう、増幅断片長が100～150bp程度となるようなマーカーを設計した。DNA変異情報のとりまとめにおいては、ハプロタイプを決定した後、ハプロタイプネットワーク推定、ハプロタイプグループごとの地理的対応の解明、ならびに、材料群ごとのハプロタイプ構成とハプロタイプ多様度（h）を算出した。解析の結果、ハプロタイプはダフリアカラマツ複合群内で12型あることがわかった。推定したハプロタイプネットワークから、7つの遺伝的まとまりを認めたが、このうち1つは他種との分化の起点にあり、これは他のグイマツと生育地等の収集情報が異なる標本1点のみでしか検出されなかったことから、「祖先型」と定義した。すなわち、祖先型を除く6つのハプロタイプグループで遺伝資源を評価できることがわかった。由来地が明確な標本群や収集資源群における解析結果より、このうち2グループが千島列島を主体に分布、1つは南サハリンに特異的に分布、1つは大陸～南サハリン～千島にかけた分布、残り2つはそれぞれ極東の大陸北側、朝鮮半島側に分布するという地理的傾向があることがわかった。精英樹群の解析結果からは、全ハプロタイプグループが検出され、h=0.834と高かったことから、ダフリアカラマツ複合群の遺伝的多様性を網羅していたことがわかった。ただし、精英樹選抜地や選抜した林分の所有形態（国有林、道・民有林）や植栽年等によってハプロタイプグループ構成には偏りがあって、全体として、収集資源群と同じく、南サハリンをルーツとする遺伝的要素が多い傾向があった。これらを踏まえ、遺伝的な観点から有用な系統を選抜してコアコレクションとし、育種利用に活用できると考えられた。

成果となる論文・学会発表等	石塚航・松尾歩・陶山佳久・福田陽子・花岡創・新田紀敏・小野清美・原登志彦. グイマツ遺伝資源の系統構成の偏りを葉緑体ゲノムスクリーニングで調べる，第132回日本森林学会大会， F7，オンライン. 2021年3月23日. Chen S.， Ishizuka W.， Goto S.， and Hara T. Complete chloroplast genome of Japanese larch (Larix kaempferi): insights into intraspecific variation with an isolated northern limit population， Forests， 11， 884. doi:10.3390/f11080884. 2020. 石塚航・原登志彦. 葉緑体ゲノムから見たグイマツの系統とその育種利用，北海道の林木育種， 63 (1)， 11-17. 2020.