共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

森林火災による北方林の攪乱動態を予測する数理モデルの開発
新規・継続の別 継続(H29年度から)
研究代表者/所属 神戸大学大学院農学研究科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 石井弘明

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

岡部桃子 神戸大学大学院農学研究科 博士前期課程

2

原登志彦 北大低温研

研究目的 北方林において、森林火災は従来から森林動態を規定する重要な撹乱要素であったため、火災が森林植生に与える影響に関する研究が進められてきた。一方、気候変動などにより火災の頻度や強度が変化した場合、それがどのような影響をもたらすのかは、実際に森林に火を放つことはできないため検証が難しい。そこで、本研究では、北大低温研の寒冷生物圏変動研究室が保有する、ロシア、カムチャッカ半島の森林火災後の植生遷移に関するデータをもとに、森林動態・森林火災モデルを作成することで、火災による撹乱が変化した場合の植生への影響を検証することを目的とする。
火災頻度を変えた場合のシミュレーション結果  
研究内容・成果 ロシア、カムチャッカ半島中央低地Kozyrevskにおいて2001年から2004年に森林火災発生後の経過年数が異なる3つの調査プロットで行われた調査を元に、成長量・生存率・新規個体加入数・新規個体加入が起こり易い場所など、森林動態に関する解析を行った。火災2年後のプロットにおいて、火災後も生存していた個体と死亡した個体の空間分布を点過程で解析した結果、死亡した個体は集中して分布していることからプロット内で火災強度に差があったことが明らかになった。また、固定帯域幅カーネル推定を用いてプロット内における個体の死亡率を求め、これをシミュレーションモデルにおける火災強度とした。すべての樹種で、火災強度が強い場合だけでなく個体サイズが小さい場合に死亡率が高くなることも考慮した結果、Betula platyphyllaおよびPopulus tremulaは火災で損傷を受けると旺盛に萌芽し、火災前にプロットに存在した周辺の同種個体の量に応じて個体数が増加する動態をシミュレータ内で再現した。一方、火災後200年が経過したプロットにおいて大径木が多かったLarix cajanderiは、火災後にも生存している確率が高かったが、火災後には新規加入個体がほとんど発生しないという動態も再現した。火災が発生しない場合の成長量や死亡率については、調査地でのデータが不足していたため、先行研究などのデータを利用して解析を行った。成長量について、Larix とBetulaは個体間競争があるという仮定の下に年輪データの解析を行ったが、解析の対象とした期間内では成長量に対する競争の影響は見られなかった。Populusの成長量は地位指数に影響されることがわかっているため、調査地の樹高データから地位指数を推定し、成長量を求た。新規加入個体数および場所についての解析で、Populusの場合は親個体から10m〜20m離れた位置で稚樹数が増加する動態を再現した。一方、Larixではそのような傾向はみられなかった。また、死亡率について、樹高1.3m以上のBetulaは樹齢が高くなると死亡率が上昇する傾向があった。また、Populusは周辺個体の胸高断面積合計(BA)が大きくなると死亡率が高くなり、競争効果が確認された。Larixについては、空間分布の解析から死亡率を決定した。
 以上の情報をもとに、個体ベースモデルを作成し、森林火災のシミュレーションを行った。火災間隔が60年未満の場合Populusが個体数の約60%を占めて優占するが、70〜100年ではBetulaが優占する一方、Larixは火災後徐々に個体数が増加し、火災間隔が110年以上になるとBAの50%以上を占めた。これらの結果は、これまでの定性的な動態予測に加えて、定量的な予測値を示したことから、今後の北方林における森林火災の抑制と森林管理に実装可能な知見であるといえる。
火災頻度を変えた場合のシミュレーション結果  
成果となる論文・学会発表等