共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

 格子ボルツマン法LESモデルを用いた都市大気境界層の再現計算
新規・継続の別 継続（H30年度から）
研究代表者／所属 東京工業大学
研究代表者／職名 助教
研究代表者／氏名 稲垣厚至

研究分担者／氏名／所属／職名
　
氏　　名
所　　属
職　　名

1

 小野寺直幸 原子力研究開発機構 研究員

2

 長谷川雄太 原子力研究開発機構 研究員

3

 渡辺力 北大低温研

研究目的 本研究は格子ボルツマン法LESのモデル開発及び，それを用いた都市の気流解析を実施する．格子ボルツマン法は比較的新しい流体計算手法であり，大気境界層への応用事例はまだ少ないが，その計算効率の高さから今後の発展が見込まれている．その手法開発に申請者らは世界に先駆けて取り組んでおり，これまでに大気境界層の流れの再現を実現している．本研究は都市大気境界層研究への応用であり，本研究課題では都市街区における微気象観測データとの相互比較により，都市街区内大気環境の数値計算による再現可能性について検討することを目的とする．
　　
研究内容・成果 本研究において，新宿副都心部を中心とした，水平6.4×6.4km，鉛直800mの領域を2m格子幅で解像した計算を実施した．8方位からの流入風を仮定し，計算領域をそれぞれの風向に応じて回転した8事例の計算を実施した．また，計算対象区域である新宿副都心部において行われたドップラーライダーによる鉛直分布観測結果を用い，時間平均水平風速及び，乱流変動の実測値と比較し，各種統計量の鉛直分布が実観測値と概ね一致する傾向にあることを確認した．また，流入境界条件を変えることで境界層高度を変化させた数値実験を行い，境界層高度が都市粗度境界層の流れ場に及ぼす影響について検討を行った．その結果，境界層高度が粗度に対して低い場合（運動量粗度の200倍程度），慣性底層の相似則並びに都市の粗度境界層，つまりは都市街区内の風速の相似性が損なわれることが分かった．境界層高度が低い場合，高層建物背後から発生，発達する大規模構造を拡散させる効果が弱いため下流数km以上に渡って持続することになり，その影響は粗度境界層へも及ぶ．一方境界層高度が十分高い場合は大規模構造の周囲の乱流変動が強い（あるいは代表長さスケールが大きい）ため，その強い拡散効果により特定の建物背後で作られる大規模構造の特徴は1km程度で霧散してしまう．結果として，境界層高度の違いにより街区内の流れの相似性は成り立たなくなることが分かった．
以上の他に，パッシブスカラーの挙動についてのモデル開発及び数値実験を実施した．都市境界層におけるパッシブスカラーの拡散挙動について，アメリカのオクラホマシティで行われた物質拡散実験結果との比較を行い，良好な一致が見られた．都市街区における物質動態は主に都市建物幾何形状と，都市内緑地（植生抵抗）によって概ね決まることが分かった．一様な植生上におけるスカラー輸送についての数値実験を行い，植生層底部における物質輸送現象に主に寄与する乱流組織構造の特徴について検討した．植生キャノピーより上側に存在する大規模な構造が直接的に寄与していることや，上空で見られる筋状構造とは異なる形状の乱流構造が卓越していることなどを明らかにした．また，本研究で用いたられている格子ボルツマン法LESモデルにLagrangian Stochastic Modelを組み，都市街区内から排出される物質をラグランジュ的に追跡することが可能となった．
　　
成果となる論文・学会発表等 Watanabe T， Shimoyama K， Kawashima M， Mizoguchi Y， Inagaki A， 2020: Large-eddy simulation of neutrally-stratified turbulent flow within and above plant canopy using the central-moments-based lattice Boltzmann method. Boundary-Layer Meteorol.， 176， 35-60. https://doi.org/10.1007/s10546-020-00519-8
Onodera N， Idomura Y， Hasegawa Y， Nakayama H， Shimokawabe T， Aoki T， 2021: real-time tracer dispersion simulations in Oklahoma City using the locally mesh-refined lattice Boltzmann method. Boundary-Layer Meteorol.， https://doi.org/10.1007/s10546-020-00594-x
渡辺力， 下山宏， 川島正行， 稲垣厚至， 2021:植物群落内におけるスカラー量の 遠隔的輸送に寄与する乱流の時空間構造. 日本農業気象学会2021年全国大会