共同研究報告書


研究区分 開拓型研究

研究課題

哺乳類の冬眠と休眠に共通する機構の探索
新規・継続の別 開拓型(2年目/全3年)
研究代表者/所属 理化学研究所 生命機能科学研究センター
研究代表者/職名 上級研究員
研究代表者/氏名 砂川玄志郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

吹田 晃享 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 大学院博士課程学生

2

古武 達也 京都大学大学院医学研究科 大学院博士課程学生

3

渡邊 正知 福山大学薬学部 准教授

4

山口良文 北海道大学低温科学研究所 教授

5

曽根正光 北海道大学低温科学研究所 助教

研究目的 哺乳類は、体熱を内因性に産生し基礎体温を37ºC付近に維持する恒温動物である。しかしこの体熱産生はエネルギーを消費するため、冬季や乾季、さらには災害など、食料枯渇時には大きな負担となる。一部の哺乳類は、これら季節性または緊急性の食料枯渇を乗り切るために、体熱産生を放棄し低体温状態となった季節性の「冬眠」や飢餓誘導性の「休眠」を行う。両者には持続時間や体温低下度に違いがあるが、能動的に体熱産生を抑制し低代謝、低体温状態になる点において共通点がある。しかし、冬眠、休眠いずれもその生理機構は殆ど不明であり、両者の本質的理解が待たれる。本課題は、この両者に共通する分子機構を同定することを目指す。
  
研究内容・成果  研究代表者である砂川は、広く生物学・医学の研究に用いられてきたマウスの飢餓誘導性休眠の表現型解析を行ってきた。その過程で、マウスの休眠の際に生じる体温変化が、冬眠と同様の能動的低代謝によることを明らかにした(Sunagwa et al., Sci Rep 2016)。しかし、休眠および冬眠の分子制御機構については、未だ現象論的な理解にとどまっている。本研究課題では、休眠と冬眠に存在するであろう分子機構の解明を目指す。分担者兼所内受け入れ担当者の山口は数年前から、実験室での冬眠分子機構研究に数々の利点を有するシリアンハムスターを用いて冬眠研究を行っている。山口は深冬眠の誘導の際、すなわち低体温への移行時に、発現が上昇するという興味深い挙動を示す遺伝子群(Deep torpor induced genes :DTIGs)を同定済みである。DTIGsの一つであるDTIG1は、マウスの飢餓誘導性休眠時にも冬眠時と同じく、低体温へと移行する際に発現の上昇が認められた。
 本開拓型研究課題では、DTIG1の遺伝子改変マウスを作成し、休眠誘導への影響を、体温および酸素消費量のリアルタイム計測を行うことで判定する。1年目、2年目の解析の結果、DTIG1遺伝子改変個体は、飢餓誘導性の休眠が顕著に阻害されることが明らかとなった。これらの結果は、冬眠動物シリアンハムスターで冬眠誘導の際に発現変動する遺伝子が、非冬眠動物であるマウスの休眠の際にも休眠誘導に関与することを示す画期的な成果である。さらにDTIG1遺伝子破壊ハムスターの作出にも成功した。2年目の課題の進行はCovid-19の影響で、酸素消費量の測定機器の修理や共同研究のための往来が制限され、当初より遅れた部分があるが、全体としては順調に進展している。3年目となる最終年度においては、DTIG1変異マウスの飢餓誘導性の休眠がなぜ阻害されるのか、DTIG1欠損が組織にもたらす変化の解析を、代謝解析、生化学解析(分担者の渡邊が担当)、遺伝子発現解析等から明らかにするとともに、DTIG1遺伝子破壊がハムスターの冬眠に与える影響を確定し論文発表を目指す。なお、本開拓型研究課題で得られつつある成果を軸に、学術変革領域研究B「冬眠生物学」(令和2-4年度)が採択された。
  
成果となる論文・学会発表等 ・山口良文、塚本大輔、砂川玄志郎「冬眠・休眠のバイオロジー」実験医学 38(6),970-981, 2020. (2020/3/18).
・The 43th Molecular Biology Society of Japan, Workshop “Mammalian hibernation ~current perspective and Organizer (Y.Y. and G.S.) 2020.12.3