共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
高解像度数値モデルとドップラーレーダーによる対流雲と地形との相互作用の解明 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 気象研究所 |
研究代表者/職名 | 室長 |
研究代表者/氏名 | 山田芳則 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
林修吾 | 気象研究所 | 主任研究官 |
2 |
川島正行 | 北大低温研 |
研究目的 | 起伏のある地表面上では、地形によって大気の流れが変わることで降水や降雪をもたらす雲に影響を及ぼすことがある。内陸部で発生するような近年の豪雨についても、その発生や維持に地形が関与している可能性が考えられる。しかし、日本においては対流雲と地形との相互作用は現在でも十分に研究されているとは言えない。 本研究の目的は、サブ km 解像度の数値モデルとドップラーレーダーデータを主に用いて、起伏のある地形が降雪雲の内部構造や雲の組織化、地上降雪量に及ぼす効果等を明らかにすることである。また、大雪をもたらす降雪雲への地形の効果も解析する。 |
研究内容・成果 | 本研究では、起伏のある地形が降雪雲へ及ぼす事例として興味深い2015年2月1〜2日に羅臼での記録的な豪雪を研究対象に選んだ。知床半島において北西風が卓越する時に、風上側の宇登呂に比べて風下側の羅臼でより多くの降水量が観測される場合がある。この事例では、羅臼で日降雪量が 71 cm と統計開始以来の最大値を記録し、積雪も179 cm であった。アメダスによる2日間の降水量は、羅臼で 102.5 mm, 宇登呂で8.0 mm と2地点間には大きな差があった。このような降水量の差をもたらした原因を明らかにするために、気象庁非静力学モデルによる数値実験を行った。サブkm 解像度モデルの実験はより多くの計算機資源を必要とするため、空間解像度 1 km のモデルを用いて予備的な実験を実施した。 数値実験では、水平解像度 5 km モデル(2月1日 00UTC初期値)を実行した結果に、水平解像度 1 km モデルをネストさせた(初期値は1日06UTC、予報時間は9時間)。微物理モデルは、氷相(液相)が2-moment (1-moment) である。知床半島の地形が降水量分布に及ぼす影響を調べるために、この半島において知床岳から西の地形を変えて実験を行った。実験には、標高を 0.1, 0.19, 0.39, 0.58, 1.5, 2.0, 2.5 倍した地形を用いた。地形を変えない実験結果を図1に示す。標高を 0.19倍以下にすると、羅臼と宇登呂との間の降水量がほぼ同じになった(図2)。これらの2地点を通るような鉛直断面内(知床半島の走向にほぼ直交)では、風下側の斜面上で強い下降流が卓越していた(図3)。中腹の風下斜面上から約2.5 km 高度までは風速が非常に強くなっている一方、風下側のふもとでは弱まっている。この結果は、山地による強制上昇流内で形成された落下速度の小さな降雪粒子が強い下降流に流されて風下斜面側に輸送され、風下側に蓄積することに寄与していることを示唆する。なお、暖かい雨(1-moment)での実験では知床半島では降水が見られず、2-momentの暖かい雨の場合でも宇登呂ではほとんど降水がなく、風下側では最大で約 1 mm の降水量と氷相を含むモデルの場合の約1/10であった。暖かい雨と冷たい雨の実験から、羅臼での多量の降水量(雪)には固体降水粒子が重要であると考えられる。 なお、雨の場合にも、羅臼での降水量が宇登呂に比べて格段に大きくなる場合がある。一例は、2015年10月25日の日降水量で、羅臼で39.5 mm, 宇登呂で 6.0 mm であった。この時、地上天気図では北海道の東の海上に発達した低気圧があり、2015年2月1〜2日の羅臼での大雪発生時と似たような気圧配置であった。羅臼での降水量が宇登呂よりもかなり多くなる機構解明にはさらなる研究が必要である。 |
成果となる論文・学会発表等 |