共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

南極域沿岸定着氷の物理的・生物地球化学的特性の解析
新規・継続の別 継続(平成30年度から)
研究代表者/所属 情報・システム研究機構 国立極地研究所
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 牛尾収輝

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

野村大樹 北大院水産 助教

2

河島克久 新潟大災害研 教授・所長

3

豊田威信 北大低温研

研究目的 南極大陸沿岸域に存在する定着氷の成長・維持・衰退に関する年々変動の実態を把握し、その変動機構および海洋-海氷-氷床間の相互作用、特に海氷崩壊に関わる力学的安定性、海氷消長に伴う生物地球化学的な環境特性、海氷成長に果たす氷上積雪の役割を理解する。海氷試料の物理・化学解析を通して、現地観測で採取した多年氷を解析する。本課題は平成30年度から継続して申請するもので、海氷成長過程、海氷構造特性の年々変化を把握することに主眼を置く。
  
研究内容・成果 昨年度共同研究で得られた試料解析結果(2017年度採取分)に衛星情報他の観測データ・資料を加えて、物理・生物地球化学的特性の考察を進めた。これによって、多年氷の成長・維持過程におよぼす氷上積雪の効果として、雪ごおり(snow ice)や上積氷(superimposed ice)形成が海氷の上方成長に果たす役割の重要性を再認識した。2019年11月、低温科学研究所で2018年度採取分の試料(海氷コアと積雪)を解析した。海氷試料については、採取した3本のコア(多年氷2本と二年氷1本で、コア長はそれぞれ380cm、155cm、147cm)の薄片試料作製および試料融解後の成分(塩分、クロロフィル濃度他)分析を行なった。低温実験室内での薄片試料では昨年度より作業効率を上げ、当初予定よりも短時間で処理した。今回解析に用いた試料は専用掘削機で採取したもので、従来のハンドオーガー掘削時に試料に強く加わる衝撃を緩和して良好な状態で採取された。その結果、通常は脆くなっている海氷上層部の薄片試料の作成において従来の難易度を下げることができた。薄片試料による結晶構造観察および融解試料の酸素同位体比測定(国立極地研究所で実施)から、海氷成長過程を考察した。試料のうち、多年氷について興味深い結果が得られた。この試料の採取地点は昭和基地南方の白瀬氷河末端近傍で、30年以上の長期間にわたって維持されていることが衛星画像情報から推定されている海域である。掘削・採取した試料は全層にわたるものではないが、上層部が積雪起源の雪ごおりであること、(採取部の)下層は海水も寄与していることがわかり、他の氷厚観測データも加味すると、海氷底層部で融解している可能性が示唆された。今後、解析結果の考察をさらに進め、大陸沿岸の多年氷形成・維持におよぼす積雪の効果を定量的に解明するため、将来の現場観測やデータ・試料解析方針について議論した。
  
成果となる論文・学会発表等 Ushio, S., A. Kobayashi, and M. Miyahara.:In-situ trial of core sample drilling of extremely thick multi-year landfast ice in the Antarctica.International Glaciological Society 2019 Sea Ice Symposium, August 19-23,2019,Canada.