共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

大気-積雪-海氷系放射伝達モデルの高精度化とその検証
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 気象庁気象研究所
研究代表者/職名 主任研究官
研究代表者/氏名 谷川朋範

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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豊田威信 北大低温研 助教

研究目的 雪氷圏は温暖化に対してもっとも脆弱な地域であり,近年の北極海の海氷面積の減少はその代表的な例である.一方,多くの気候モデルは近年の急激な海氷面積の減少に対してその再現性に不確実性が大きく,その克服が重要な課題となっている.その要因の1つとして,気候モデルに入力する海氷面のアルベドが不十分であることが指摘されている.気候モデルに入力する海氷面のアルベドは,現在気候における経験的な値が採用されているため,そのことが海氷面積の将来予測を不確実なものにしている可能性が高い.本研究では, 海氷放射スキームの改良に資するために,現場観測と放射伝達理論に基づく大気-積雪-海氷系放射伝達モデルの高精度化を行う.
  
研究内容・成果 現在開発中の放射伝達モデルは,海氷上積雪や海氷を構成する氷,気泡,ブラインを考慮したモデルであり,大気-積雪-海氷系の光の伝搬を放射伝達方程式に基づき計算する.しかし,海氷の物理・光学特性の知見が極めて少ないため,海氷のアルベドを精度よく再現できるまでには至っていなかった.そこで海氷の光学特性の取り扱いの精緻化を目的として,北海道サロマ湖海氷上で海氷の分光測定と海氷上積雪断面観測,海氷観測を実施した.様々な海氷の光学特性や物理特性を調べるために,海氷厚,積雪深の異なるサンプルを取得した.測定項目は放射伝達モデルの入力値になる積雪深,積雪密度,積雪粒径,積雪不純物濃度,海氷構造,塩分,気泡サイズ分布,クロロフィルa濃度である.クロロフィルa濃度は海氷底部に付着しているアイスアルジーの光学特性を決める重要なパラメータである.物理解析の結果,海氷の気泡,ブラインのサイズ分布はそれぞれ半径で600-800 um, 200-300 umの範囲で対数正規分布に従っていた.またクロロフィルa濃度は海氷下部の約10 cmで高く~150 ugL-1であった.光学特性は物理解析の結果をもとにMie理論で決定した.気泡,ブラインの消散係数はそれぞれ~1.0×10^3 m-1, ~1.0×10^4 m-1,非等方因子は~0.85, 1.0,単一散乱アルベドは1.0, 0.5-1.0であった.アイスアルジーの吸収・散乱係数はともにクロロフィルa濃度を変数とし,前者はプランクトンと水中溶存有機物の吸収係数を,後者は懸濁物質の散乱係数を用いて決定した.

現場で取得したデータをもとに,上記の光学特性を入力データとした場合の,海氷放射伝達モデルの精度検証を行った.現場で測定した海氷の波長別アルベドをもとに放射伝達モデルと比較したところ,波長別アルベドの値は波長によって過大・過小評価しているものの,全体を通じて観測結果とよく一致する結果が得られた.特に海氷表面の鏡面反射や積雪の効果がよく再現されており,またアイスアルジーの効果を取り込むことで可視域の再現性が良くなった.しかし,依然として可視〜近赤外域においてバイアスが生じでおり課題が残った.この要因は主にアイスアルジーの光学特性が十分に再現できていないことが考えられる. 引き続き,海氷の物理・光学特性の調査・研究を行い,海氷放射伝達モデルの高精度化に取り組むとともに,このモデルを各種気象モデル・気候モデルに実装したうえで,観測的研究を通じてモデルを検証し,モデルの更なる改良につなげる予定である
  
成果となる論文・学会発表等 D. Nomura, P. Wongpan, T. Toyota, T. Tanikawa et al. Saroma-ko Lagoon Observations for sea ice Physico-chemistry and Ecosystems 2019 (SLOPE2019), Bulletin of Glaciological Research (in press).

Toyota et al. Effects of snowfall on sea ice properties at the early growth stage. Ann. Glaciol.(投稿中)

Wongpan et al. Using under-ice hyperspectral transmittance to determine land-fast ice algal biomass in Saroma-ko Lagoon, Japan. Ann. Glaciol.(投稿中)

Tanikawa et al. Effects of snow grain shape and mixing state of snow impurity on retrieval of snow physical parameters from ground-based optical instrument. JGR-Atmos.(投稿中)

谷川朋範, Pat Wongpan, 豊田威信 他:サロマ湖における海氷の波長別アルベドと透過率測定,雪氷研究大会(2019・山形).