共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

ミリ波サブミリ波分光撮像観測に基づく星間物質進化の研究
新規・継続の別 継続(平成28年度から)
研究代表者/所属 東京大学天文学教育研究センター
研究代表者/職名 特任助教
研究代表者/氏名 竹腰達哉

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

大島泰 国⽴天⽂台先端技術センター 助教

2

河野孝太郎 東⼤天⽂学教育研究センター 教授

3

中坪俊一 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 主任研究開発員

4

⾹内晃 北大低温研

5

藤⽥和之 北大低温研

6

森章⼀ 北大低温研

研究目的 星や銀河の材料となる低温のガス・ダストの観測的研究は、初期宇宙における天体形成や、星・惑星の形成過程を探るうえで重要である。本研究では、天体形成に直結する100K以下の低温の星間物質を効率よくトレースし、温度や質量といった物理量を推定するうえで最適な、ミリ波サブミリ波帯の超広帯域観測の実現を⽬指す。そのために、チリ共和国・アタカマ砂漠に設置されているASTE望遠鏡での本格的な科学運⽤を⽬指して開発が進められている、連続波撮像カメラおよび超広帯域分光装置DESHIMAの改良を行い、撮像・分光両⾯において3オクターブにわたる帯域幅を同時観測可能なシステムへの更新を⽬指す。
等方性黒鉛を利用した極低温焦点面モジュール。下から4K, 1K, 350mK, 250mKステージになっている。 高密度ポリエチレン表面に加工した反射防止溝構造の顕微鏡写真。溝の深さは840ミクロン。 
研究内容・成果 今年度は、2017年にASTE望遠鏡に搭載されたDESHIMAのデータ解析を推進し、その成果を査読論文として出版した。2017年に搭載した際の天体観測およびキャリブレーションデータの解析を進めた結果、赤方偏移した近傍銀河からの一酸化炭素輝線放射を世界で初めて検出することに成功した。この成果は査読論文としてNature Astronomy誌にて出版された。またデータ解析に用いた大気温度を較正する手法についても、Journal of Low Temperature Physics誌での出版が受理されている。今後の第2世代DESHIMAのASTE望遠鏡での運用によって、大規模な星形成銀河赤方偏移サーベイや低温の星間ダストの物性に対する制限など、さらなる成果が期待される。
2018年度より新規に開発を開始した超伝導力学インダクタンス検出器(KIDS)を用いた連続波撮像カメラについては、その基盤技術となる検出器および多色同時撮像を実現するオンチップフィルター、およびカメラに必要な冷却系および光学素子の開発を推進した。特に、低温科学研究所技術部の協力の下、下記の開発を行った。
1. 等方性黒鉛を用いた極低温構造支持体の製作と実証
地上観測条件下でのフォトンノイズリミットの感度を達成するためにはKIDsを250mK以下に冷却する必要がある。熱絶縁に用いるサポート材として、近年低価格での入手が可能になった一方、加工の難しさから利用されてこなかった、等方性黒鉛に注目した。今年度は低温研技術部にてサポート構造を製作し、冷却試験を実施した。図1に示すサポート構造をカメラクライオスタットに組み込み、冷却試験を行った結果、極低温ステージを220mKまで冷却することに成功した。極低温サポート材として用いられているべスペルと比べ、4K以下での熱絶縁性能が高いにもかかわらず、それ以上の温度での熱伝導が良いため、速い冷却サイクルと低い到達温度を両立できた。また構造強度が高いこと、価格が安いことも非常に大きなメリットであり、今後、極低温が必要な物理実験での利用が急速に進むことが期待される。
2. 冷却光学レンズ用超広帯域反射防止技術の検討
サブミリ波帯では誘電体レンズ材として、吸収が小さい高密度ポリエチレンが用いられ、三角形の溝状の構造を誘電体表面に加工することで反射防止加工を実現できる。しかし、本カメラにおいては、130GHzから295GHzで利用できる超広帯域の反射防止加工技術の確立が必要である。そこで我々は、観測帯域で十分な透過特性が得られる溝形状を数値計算によって得て、実際に製作可能かを確かめ、さらに透過特性を測定することにした。低温研技術部において製作した溝構造の断面を図2に示す。得られた形状は最適解と比べ、やや上面部の幅が大きくなっており、テラヘルツ時間領域分光法を用いた透過測定の結果、観測波長帯においては想定外のロスがみられた。今後は加工方法や測定手法の改善を進める予定である。
等方性黒鉛を利用した極低温焦点面モジュール。下から4K, 1K, 350mK, 250mKステージになっている。 高密度ポリエチレン表面に加工した反射防止溝構造の顕微鏡写真。溝の深さは840ミクロン。 
成果となる論文・学会発表等 論文発表
A. Endo et al., “First light demonstration of the integrated superconducting spectrometer”, Nature Astronomy, 3, 989 (2019)
T. Takekoshi, “DESHIMA on ASTE: On-sky Responsivity Calibration of the Integrated Superconducting Spectrometer”, Journal of Low Temperature Physics, accepted https://arxiv.org/abs/2001.05151

学会発表
Tamura et al., "Development of DESHIMA 2.0: Upgrade design overview", 日本天文学会2019年秋季年会, V130a, 2019年9月13日
宇野他、「多色連続波カメラ用 FPC 広帯域バンドパスフィルターの多段パターン最適化」、日本天文学会2019年秋季年会, V126b, 2019年9月13日