共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

オホーツク海と相互に影響を及ぼしあうグローカル大気海洋諸現象
新規・継続の別 継続(平成28年度から)
研究代表者/所属 三重大学
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 立花義裕

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

植田宏昭 筑波大学 教授

2

吉川裕 京都大学 准教授

3

榎本剛 京都大学 准教授

4

高谷康太郎 京都産業大学 准教授

5

三寺史夫 北大低温研

6

中村知裕 北大低温研

研究目的 4年間の共同研究の目的は以下である.共同研究をきっかけとして,大型の科研費の取得に結びつけ本共同研究を融合させることで,思いもよらない全く新しい発想に基づく研究の開拓.オホーツクや隣接するカムチャツカをターゲットとする大気海洋相互作用の実施に留まらず,それらに関わる北極振動,アリューシャン低気圧,アジアモンスーン,北太平洋亜寒帯の物質循環,北太平洋回帰線水, atmospheric river,そしてこれらの予測可能性にまで研究の枠を広げ,気象学者と海洋物理学者の協働を深化させる.さらに,平成30年7月豪雨の一因であるオホーツク海高気圧のグローカルをつなぐ研究にも着手し,豪雨に先行する台風が豪雨に及ぼす研究も実施する.
「北極海アラスカ沖に空いた海氷の巨大な穴が作る偏西風蛇行」の模式図1 「北極海アラスカ沖に空いた海氷の巨大な穴が作る偏西風蛇行」の模式図2 「冷たいオホーツク海は,太平洋高気圧を強化する.そして梅雨も強化する」の模式図
研究内容・成果 4年間の成果について以下に記す.
共同研究の旅費を用いた研究集会を開催し,新たな共同研究を立ち上げるためのアイデアを出し合った.オホーツクの大気海洋相互作用に留まらず,研究の枠を広げ,気象学者と海洋物理学者の協働を深化させた.これら成果は,三寺が研究代表となった基盤A,立花が研究代表者の基盤B,そして植田が研究代表者である基盤Cの採択に至った.さらに新学術領域研究「変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot」の採択にも至った.立花は上記の計画研究の代表として「東アジア縁辺海と大気の連鎖的双方向作用とモンスーン変調」を担う.これらは共同研究に採択されているという旗印による分担者同士の結束が強まった結実である.
コロナ下ではあったが,年度末の3月には小ワークショップを行った.台風と海洋の相互作用の新たな理論の提案,カムチャツカ半島の水循環,2020年暖冬の速報が議論された.過去4年間,学生を含め多くの多人数でのワーックショップを開催し全く新しい形の共同研究の萌芽やイノベーションがなされた.また,全国から多くの学生も参加し,研究者の裾野を広げることにも寄与した.
以下に,共同研究が礎となった研究成果の数例を示す.
1) 32年ぶりの大寒波は温暖化の影響か?〜北極海アラスカ沖に空いた海氷の巨大な穴が作る偏西風蛇行〜
2017-18冬の北極振動指数は長期に亘り「負」の状態が続き,日本は32年ぶりの記録的寒波年となり,各地で記録的豪雪となった.その一因がアラスカ沖(チュクチ海)の北極海の海氷が観測史上最も少なかったことにあることを見いだした.アラスカ沖の海氷の少なさをwarm holeと命名し,これが負の北極振動の状態が継続し,記録的寒波を日本にもたらしたことを示した.これら成果は,Tachibana et al. 2019, Scientific Reports, DOI : 10.1038/s41598-019-41682-4に掲載された.
2) 冷たいオホーツク海は,太平洋高気圧を強化する.そして梅雨も強化する
梅雨前線は,太平洋高気圧を伴う暖湿の小笠原気団と,北の冷たいオホーツク海高気圧を伴う,オホーツク海気団の狭間で,南北の気団のせめぎ合いで存在するといわれている.数値的研究の結果,オホーツク海があることで,梅雨の雨量は約10%増加し,冷たいオホーツク海の存在が,太平洋高気圧を強めていることが示された.
平成30年7月豪雨年の7月上旬のオホーツク海の海面水温はかなり低温であった.従って,この豪雨にオホーツク海が寄与した可能性がある.地球温暖化で世界の海面水温が上昇している.オホーツク海は海氷に覆われる海域であることから,おそらく温暖化のスピードは周囲の海域よりも遅いであろう.従ってオホーツク海と周囲の海との温度コントラストが大きくなり,近未来の梅雨も強くなる可能性がある.これら成果は,Kawasaki Tachibana et al. 2020, Journal of Climate, DOI: 10.1175/JCLI-D-20-0432.1にacceptされた.
「北極海アラスカ沖に空いた海氷の巨大な穴が作る偏西風蛇行」の模式図1 「北極海アラスカ沖に空いた海氷の巨大な穴が作る偏西風蛇行」の模式図2 「冷たいオホーツク海は,太平洋高気圧を強化する.そして梅雨も強化する」の模式図
成果となる論文・学会発表等 Kawasaki,K.,Tachibana,Y.,T. Nakamura,and K.Yamazaki,Role of the cold Okhotsk Sea on the climate of the North Pacific subtropical high and Baiu precipitation, Journal of Climate,(Accepted), DOI: 10.1175/JCLI-D-20-0432.1,2020

Shiozaki,M.and T. Enomoto,Comparison of the 2015/16 El Niño with the two previous strongest events. SOLA,6, doi:10.2151/sola.2020-003,2020

Ushijima,Y and Y. Yoshikawa,Mixed layer deepening due to wind-induced shear-driven turbulence and scaling of the deepening rate in the stratified ocean Ocean Dynamics 50,2020

Tachibana,Y.,K. K. Komatsu,V. A. Alexeev,L. Cai,and Y. Ando,Warm hole in Pacific Arctic sea ice cover forced mid-latitude Northern Hemisphere cooling during winter 2017-18,Scientific Reports,9, 5567,DOI : 10.1038/s41598-019-41682-4,2019

Ushijima,Y and Y.Yoshikawa,Mixed layer depth and sea surface warming under diurnally cycling surface heat flux in the heating season,Journal of Physical Oceanography 49,2019