共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

環境微生物における新規炭素中央代謝・アミノ酸生合成経路の探索
新規・継続の別 継続(平成30年度から)
研究代表者/所属 海洋研究開発機構
研究代表者/職名 主任研究員
研究代表者/氏名 布浦拓郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

千葉洋子 海洋研究開発機構 ポスドク研究員

2

澄田智美 海洋研究開発機構 特任技術主任

3

力石嘉人 北大低温研

研究目的 地球上における多様な環境において、微生物は進化の道筋で獲得した仕組みを活かした環境特異的な生存・適応戦略をとる。その生存・適応戦略の多様性には、すべての生命が有す炭素の中央代謝やアミノ酸の生合成等の生命活動の根幹に関わる基本的仕組みも例外ではない。一方、従来、代謝探索研究の対象とされてきた環境微生物の多くは、モデル生物と同様に良く増殖する菌株にほぼ限られており、増殖効率の低い微生物種については研究が極めて困難であった。本研究において、増殖効率が低く、既存の研究手法では困難であった環境微生物群を対象に、ゲノム情報を参照して新規微量メタボローム解析技術を利用し、未知代謝経路の解明を試みる。
  
研究内容・成果 極めて多様な微生物は、地球上の様々な環境にそれぞれ適応し、またそれぞれの環境における物質循環に関与している。この適応の背景には、物理化学環境(即ち、エネルギー源、炭素源窒素源、更に温度、pH、塩分濃度等)が異なる生息環境における個々の微生物が進化の過程で獲得してきた生存・適応戦略がある。この生存・適応において、微生物は必要であれば、すべての生命が有す炭素の中央代謝やアミノ酸の生合成等の生命活動の根幹に関わる基本的仕組みおも変貌させる。実際、近年、大腸菌や酵母のようなモデル生物とは異なる炭素中央代謝やアミノ酸生合成の経路が、環境微生物(とくに極限環境微生物)から見出されているのである。しかし、これまでこれらの研究の対象とされてきた環境微生物の多くは、モデル生物と同様に増殖効率の高い菌株が対象であり、既存の情報は、微生物における機能多様性の一端のみを示している可能性すらある。特に、培養が難しく、増殖効率の低い微生物種については、従来利用されてきた研究手法では多量の菌体が必要とされることから、代謝経路の探索が極めて困難であった。そこで、本研究においては、申請者らが近年開発した増殖効率が低く、既存の研究手法では困難な環境微生物に適用可能な代謝解析技術の適用範囲を検証すると共に、環境微生物に潜む未知代謝経路の解明を目指している。
本研究期間においては、前年度に引き続き、嫌気的環境における窒素循環に関わる微生物の集積培養系を対象とした非単離菌株への適用可能性を検証すると共に、熱水環境に生息する好熱性水素酸化硫酸還元菌、好熱性水素酸化硫黄還元菌等を対象とした解析を実施した。なお、本解析技術は、アミノ酸に化学構造が固定された中間代謝産物の安定同位体標識された分子構造を解析するものであり、当初、好熱性水素酸化硫黄還元菌におけるTCA回路(クエン酸回路)の機能方向を決定する為に活用された(Nunoura et al. 2018)。本研究期間においては、特に完全型及び一部を欠失したTCA回路と、還元的TCA回路と並び最も始原的な炭素固定経路として知られるアセチルCoA経路(Wood Ljungdahl経路)の関係性の解明がいずれの対象微生物においても主要な焦点となった。本研究および並行して実施したショットガンプロテオーム等の解析結果を統合的に解釈し、これらの微生物系統群において、アセチルCoA経路が実際に炭素固定に貢献していることを明示することが出来た。現在、個々の微生物における炭素中央代謝について論文執筆を進めている。
  
成果となる論文・学会発表等