共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	大気-積雪間の熱・水交換過程をモデル化するための観測的研究（3）
新規・継続の別	継続（平成29年度から）
研究代表者／所属	気象庁気象研究所
研究代表者／職名	主任研究官
研究代表者／氏名	庭野匡思

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	青木輝夫	岡山大学大学院自然科学研究科	教授
2	保坂征宏	気象庁気象研究所	室長
3	谷川朋範	気象庁気象研究所	主任研究官
4	橋本明弘	気象庁気象研究所	主任研究官
5	的場澄人	北大低温研

研究目的	雪氷圏では、近年の地球温暖化に伴い氷床質量損失、積雪期間減少、及び降水の雨雪比変化などに代表される環境変化が急速に進行している。その実態を把握して支配メカニズムを解明するためには、高精度現地観測の実施と、それに基づく大気-積雪相互作用に関わる物理過程の現実的なモデル化が有効である。本研究では、低温科学研究所露場における積雪断面観測、熱収支観測、積雪不純物観測を継続すると同時に、我々が開発してきた各種積雪物理プロセスモデルや領域気候モデルの改良を行う。その結果として、現在気候下における大気-積雪相互作用の理解の深化に寄与し、雪氷圏における大気・積雪の長期・短期予測精度向上に資することを目的とする。

研究内容・成果	昨年度に引き続き、低温科学研究所露場において放射・気象・エーロゾル等の連続観測を継続し、冬期間には地上設置型改良全天分光日射計GSAFによる積雪粒径・不純物濃度の遠隔測定、積雪断面観測、積雪サンプリング及び不純物濃度測定を実施した。また、本研究課題にとって重要な観測項目の1つである積雪深を以前にも増して正確に測定実施すること目的として、従来から運用してきている超音波式積雪深計に加えてレーザー式積雪深計を導入した。今冬期の気象・雪氷観測結果の解析は現在実施中である。本観測サイトは、昨年度報告の通り、WCRP Grand Challenge Melting Ice & Global Consequencesに貢献するために立ち上げられた積雪モデル相互比較プロジェクトESM-SnowMIP（http://www.climate-cryosphere.org/activities/targeted/esm-snowmip/about）の1次元モデル検証サイトにアジアから唯一選定されている。今年度は、積雪モデル相互比較に際して活用された気象・雪氷現地観測データが出版された[1]。1次元モデル相互比較結果に関する論文は、モデル相互比較プロジェクト主催者の1人によってアメリカ気象学会の論文誌に投稿され、現在査読中である。ESM-SnowMIPに参加した我々の積雪変質モデルSMAP及び関連する数値モデル群の最新の状況は日本気象学会誌「天気」にて報告され、低温科学研究所共同研究集会シンポジウム「変化する環オホーツク陸域・海域環境と今後の展望」においても紹介された[2， 3]。雲が札幌の融雪に与える影響を明らかにするために、2007～2017年冬期の雲の放射強制力（曇天時と晴天時の雪面放射収支の差と定義）を観測データから推定することを試みた[4]。その結果、1～3月における雲の放射強制力の平均値は+17.8 W m-2であり、各月の値は、主に雪面短波放射収支の季節変化に伴い、1月における値+25.1 W m-2から融雪が卓越する3月における値+4.8 W m-2にまで減少していたことが分かった。また、札幌の積雪内部に存在する光吸収性不純物の実態把握[5]と、それに起因する放射強制力（不純物有りの時と無しの時の雪面放射収支の差と定義）の推定の試み[6]も継続した。光吸収性積雪不純物の存在は融雪を加速させ、アイス・アルベド・フィードバックなどを介して近年の温暖化を助長していると考えられているが、その実態は非常に不透明である。一方で、我々が取得している光吸収性積雪不純物観測データは10年以上の長期間に渡ることから、世界的に見ても非常に貴重である。今後も観測を継続して詳細な評価解析結果を早期に論文発表する予定である。

成果となる論文・学会発表等	[1] Ménard， C. B. et al.(2019): Meteorological and evaluation datasets for snow modelling at ten reference sites: description of in situ and bias-corrected reanalysis data， Earth Syst. Sci. Data， 11， 865-880. [2] 庭野匡思 (2019): 札幌における気象・雪氷観測からグリーンランド氷床雪氷質量変動研究へ，低温研シンポジウム「変化する環オホーツク陸域・海域環境と今後の展望」， 2019年7月26日-27日. [3] 青木輝夫 (2019): ミクロな積雪プロセス研究から気候研究へ，低温研シンポジウム「変化する環オホーツク陸域・海域環境と今後の展望」， 2019年7月26日-27日. [4] 田村多佳基ほか (2019): 札幌における雲が積雪面上の熱収支に与える効果，日本気象学会2019年度秋季大会，P460. [5] 對馬あかね他 (2019): 2007-2018 年冬季の札幌の表面積雪中のEC、OC およびdust 濃度の変動傾向，雪氷研究大会（2019・山形）B2-2. [6] 広沢陽一郎ほか (2019): 札幌で10冬期間に観測された積雪不純物が放射収支と融雪に与える効果，日本地球惑星科学連合2019年度連合大会， 2019年5月26日-30日， ACC27-09.