共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

衛星観測で捉えた東南極における氷河流動と海氷状態変化の相互作用
新規・継続の別 継続(平成30年度から)
研究代表者/所属 日大工学部
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 中村和樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

山之口勤 RESTEC グループリーダー

2

青木茂 北大低温研

3

杉山慎 北大低温研

研究目的 メルツ氷河や白瀬氷河等の流動場および接地線を含む流動環境を、衛星観測されたデータを解析することにより導出する。とくに、Calving端の前後に注目して、主として合成開口レーダ(SAR)を用いることにより、氷河およびそれを取り囲む海氷の流動環境の時間的かつ空間的変動に関する考察を目指す。
  
研究内容・成果  白瀬氷河は南極の他の氷河と比較しても流動速度が速いことで知られており、南極氷床の質量収支の把握のために氷河の流動速度の監視は重要である。現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた陸域観測技術衛星2号(ALOS-2)が運用されており、ALOS-2に搭載されたフェイズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(SAR)2型(PALSAR-2)によりSARデータが取得されている。ALOS-2/PALSAR-2の広域観測モードデータによる白瀬氷河の観測結果から、1998年秋季に氷河浮氷舌と定着氷の大規模な崩壊以降は顕著な変動は見られなかったが、2015年以降は定着氷の大規模な崩壊が始まり氷河の流動速度にも変化が見られている。
 以上から、ALOS-2/PALSAR-2の高分解能モードデータを用いて、白瀬氷河と氷河末端の定着氷の流動速度の相互関係を調べた。
 ALOS-2/PALSAR-2は回帰日数が14日であり、白瀬氷河の同一場所の変動を最短で14日間隔で調べることが可能であり、本研究では高分解能モードにより2016年から2018年に取得された同一パスのHH偏波データを使用した。氷河と定着氷の変動を調べることができた画像ペアは7ペアであった。
 白瀬氷河の流動速度プロファイルから、Grounding line(GL)から10 km下流における流動速度は、ほぼGLにおける流動速度と同様の2.33±0.02 km/aであり(7ペアの平均±標準偏差)、氷河末端周辺の定着氷の安定/不安定との関連性は低いと見られる。一方、2017年と2018年の秋季に見られたようにリュツォ・ホルム湾東部に開放水面が生じた場合、GLから30 km下流辺りから沖側へと定着氷の安定/不安定に関係する流動速度の顕著な変化が見られた。GLから10 km下流と氷河末端の流動速度の差は、定着氷が存在する場合が0.39 km/a、存在しない場合が0.62 km/aであり、定着氷が存在しないことにより0.23 km/aの加速を示した。氷河末端周辺における定着氷の流動速度プロファイルから、定着氷の流動速度は氷河末端部から沖側へと減速する傾向が見られ、距離に対する速度の減衰率は時期や位置に依らず同じ傾向を示した。
 本研究ではALOS-2/PALSAR-2の高分解能モードデータに画像相関法を適用して、白瀬氷河と氷河末端を取り囲む定着氷の流動速度を調べた。その結果、GLから10 km下流の流動速度は過去の流動速度プロファイルと調和的であった。白瀬氷河の下流域における流動速度は、氷河末端周辺において定着氷が存在しない場合は、秋季に氷
河末端周辺における流動速度が加速する傾向(0.23km/a)が見られた。これにより、氷河の末端を取り囲む定着氷の存在の有無は、白瀬氷河の流動速度を制御していることが示された。
  
成果となる論文・学会発表等 K. Doi, Y. Aoyama, H. Hayakawa, K. Nakamura, T. Yamanokuchi, S. Aoki: Ice flow motions of Shirase Glacier, East Antarctica obtained from GNSS and Synthetic Aperture Radar, 27th International Union of Geodesy and Geophysics (IUGG) General Assembly, July 2019.

Kazuki Nakamura, Shigeru Aoki, Tsutomu Yamanokuchi, Takeshi Tamura, Shuki Ushio, and Koichiro Doi: Fluctuations of the ice flow velocity of Shirase Glacier and its surrounding landfase ice displacement in east Antarctica derived from ALOS-2/PALSAR-2 image correlation, IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium 2019 (IGARSS 2019), pp.4172-4174, Yokohama, Japan, November 2019.

中村和樹, 青木茂, 山之口勤, 田村岳史, 牛尾収輝, 土井浩一郎: 白瀬氷河と氷河末端を取り囲む定着氷の流動速度, 日本リモートセンシング学会第67回学術講演会, pp.87-88, 岐阜県岐阜市, 2019年11月.