共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

微気象・植生動態結合モデル(MINoSGI)の生理生態モジュールの改良・拡張
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 滋賀大DS教育研究センター
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 中河嘉明

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

横沢正幸 早稲田大人間科学学術院 教授

2

原登志彦 北大低温研 教授

研究目的 人間活動に起因する地球規模の気候変動が懸念され、そのような変動を評価・予測するために、地球システムモデルが作成・利用されている。また植生分布変化が気候変動に重要な影響を与えているという知見が蓄積されるにつれ、地球システムモデルと結合可能な植生モデルの開発が重要視されてきている。そのようなモデルの1つにMINoSGIがある。このモデルは、森林群落内の物理環境を記述する微気象モデルと偏微分方程式型の植物個体群モデル(サイズ構造モデル)の結合モデルである。本研究では、近年の生態学分野での研究の進展を反映して、MINoSGIなどに含まれるサイズ構造モデルについて改良・更新を行うことを目的とする。
  
研究内容・成果 植物個体群・群集のダイナミクスをサイズ構造モデルで表現する上で、最も重要な課題は「平均場仮定をどのように取り扱っていくか」である。平均場仮定とは「植物サイズの成長率や死亡率は植物サイズの決定論的な関数である」という仮定であり、サイズ構造モデルにはこの仮定が置かれている。しかしながら、実際には、同じ植物サイズであっても成長率や死亡率にはバラツキが存在する。これは、同じサイズの植物個体であっても、周囲の個体の空間分布や他個体からの競争影響が異なることや、生得的な個体差が存在するためである。この問題は約40年前から知られており、本共同研究の分担者(原教授)はサイズ構造モデルに拡散項(D関数)を新たに導入し、成長率をサイズの確率論的な関数で表現可能にした。また、その後の研究によって、競争非対称性などの様々な条件における拡散項のモデル化が進んでいる。本研究では、これらの個体群レベルのマクロな理論をミクロなレベル(個体レベル)から説明することを試みた。そのために北海道のトドマツ実験林のデータを用いて、相対成長率と死亡率から、競争影響の大きさを個体間距離や植物サイズの関数(競争カーネル関数)として推定した。推定した結果、相対成長率から推定された競争カーネルよりも死亡率から推定された競争カーネルの方が、個体間距離の変化に対する一定性が高かった。競争カーネル関数が個体間距離の変化に対する一定性が高いほど平均場仮定の適用可能性は高い。したがって、死亡率は相対成長率に比べて、平均場近似の適用可能性が高くサイズの決定論的関数による記述可能性が高いことが分かった。相対成長率と死亡率の間でこのような違いが生じる原因は、植物の地上部競争と地下部競争の性質の違いに関係していると予想しているが、今後さらなる研究を進めていく必要がある。
植物個体群・群集のサイズ構造モデルの、もう1つの重要な課題は「地下部競争の導入」である。従来、サイズ構造モデルの研究では、光競争の導入については多くの研究が行われてきたが、地下部競争については殆ど考慮されてこなかった。そこで本研究では、光競争だけでなく、水や土壌養分といった複数の資源競争をサイズ構造モデルに導入し、シミュレーションを行った。シミュレーションの結果、地下部の資源が豊富に存在する条件ほど、光競争が支配的になり共存可能な種数は減少した。また、先行の多くの種多様性に関する研究によって植物群集内では種数と生産性が負の関係になることが知られているが、我々のシミュレーション結果は成長と繁殖に対する資源の分配様式が種数と生産性の関係において重要であることを明らかにした。
これらのサイズ構造モデルに関する研究を発表するため、日本生態学会においてシンポジウム「植物群集におけるサイズ構造モデルの過去、現在、未来」を企画した。
  
成果となる論文・学会発表等 1) Nakagawa Y., Yokozawa M., Hara T. “The effect of disturbance size distribution on vegetation dynamics”, “Fin-Jpn Joint Seminar: Predicting Effects of Climate Change on Ecosystem Services”, Kagoshima, November, 2019
2) 原登志彦, 2020. 植物のサイズ構造モデルの着想と展開. 『第67回日本生態学会大会』(植物群集におけるサイズ構造モデルの過去、現在、未来(シンポジウム))、名古屋、2020年3月
3) 横沢正幸, 2020. 群落光合成モデルを導入したサイズ構造モデル. 『第67回日本生態学会大会』(植物群集におけるサイズ構造モデルの過去、現在、未来(シンポジウム))、名古屋、2020年3月
4) 中河嘉明, 2020. 光競争と地下部競争を導入したサイズ構造モデル. 『第67回日本生態学会大会』(植物群集におけるサイズ構造モデルの過去、現在、未来(シンポジウム))、名古屋、2020年3月