共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

寒冷圏部分循環湖沼におけるメタンサイクルを担う微生物の垂直分布と相互作用
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 鶴岡工業高等専門学校
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 久保響子

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

東岡由里子 高知工業高等専門学校 准教授

2

福井学 北大低温研

3

小島久弥 北大低温研

研究目的 寒冷圏においては、湖沼表面が冬期に完全に凍結し、温度勾配の変化を伴う成層構造が形成される。このような湖沼では、急激に水温や他の化学物質の濃度勾配変化を伴った化学躍層が形成される場合がある。本共同研究では、釧路市の春採湖における微生物間の炭素循環を硫黄循環と関連づけて理解することを目的とした。
  
研究内容・成果 北海道釧路市にある春採湖春採湖は最大水深約5.5 mの浅い部分循環湖であり、冬期に表層が完全に結氷する。海水が一部混入するため主に塩分濃度勾配によって成層しており、季節を通して表層と深層の水の循環が行われない。そのため深層部は完全に酸素が枯渇した嫌気状態であり、硫酸還元が進行して高濃度の硫化水素が検出されている。本年度の共同研究では、春採湖における微生物学的なメタンサイクルに着目し、現地における野外調査と、湖水および堆積物試料の採取を行った。調査日(2020年2月26日)における湖心直上での氷厚は48 cmと例年並みであった。溶存酸素濃度および小型CTDを用いて電気伝導度、温度、水深を測定した。水深3-3.5 mに電気伝導度が大きく変化する化学躍層があることが確認できた。水温は湖面付近では0.7℃、水深が深くなるにつれ上昇し湖底直上では約5.5℃だった。溶存酸素は3 m以深でほぼ枯渇していた。
 湖水中のメタン濃度は、水深2.5 mで約0.02 mMと一番低く、深くなるにつれ上昇し水深5 mでは約0.5 mMだった。深層部においては、堆積物中の還元的な環境でメタン生成アーキアが生成したメタンが湖水中に拡散していると考えられる。水深2.5 mより浅い表層では、湖面に近づくにつれメタン濃度がやや上昇するという珍しいプロファイルになった(~0.15 mM)。湖面を覆う氷によって、湖底から上昇してきたメタンガスが捕集されている可能性がある。あるいは表層において好気的メタン生成が行われている可能性もある。このようなメタン濃度のプロファイルはあまり報告例がないが、最近の報告ではシベリアの湖沼(夏期)でこのようなプロファイルが見られており、メタン濃度が一番低い層の直下では嫌気的なメタン酸化が、直上では好気的なメタン酸化が行われているのではないかと推察されている(Thalasso et al., 2020)。
 今後は得られた湖水および堆積物試料を用い、好気、微好気、嫌気条件でメタンなどの炭化水素を基質とした集積培養を行う。DNAを用いた微生物群集構造解析を行い、メタン濃度のプロファイルと対応した分布を示す微生物種が検出されるかどうかを確認する。


Thalasso, F., Sepulveda-Jauregui, A., Gandois, L. et al. Sub-oxycline methane oxidation can fully uptake CH4 produced in sediments: case study of a lake in Siberia. Sci Rep 10, 3423 (2020).
  
成果となる論文・学会発表等