共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

貝殻など生物由来の微細組織を利用した新しい熱利用材料の開発と融雪への応用
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 弘前大学 地域戦略研究所
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 小畠秀和

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

桐原慎二 弘前大学 地域戦略研究所 教授

2

木村勇気 北大低温研

研究目的 貝殻などの水産廃棄物の大部分は、1000℃以上の高温で焼却処分されている。しかし、これらの主要成分である炭酸カルシウムや、焼成によって得られる酸化カルシウムは化学蓄熱材として利用できる可能性のある材料である。これまでの研究により、著者らは貝殻などの熱分解はカルサイト試薬に比べ低温で進むことを明らかにしたが、カルサイトの熱分解反応は粒径、比表面積や不純物の濃度などに依存するため律速過程が複雑であるため、その要因は明らかになっていない。そこで、本研究ではカルサイトの熱分解によって得られた試料および、透過電子顕微鏡内で熱分解させた試料のその場観察を行い、その反応過程の解明を試みた。
  
研究内容・成果 本研究では粒径を63ミクロン以下にそろえた純度99.95%のカルサイト試薬、ホタテガイおよびマガキの貝殻、ウニの棘を試料に用いた。弘前大学において、Ar雰囲気下で試料を5、 10、 20、 30、 40 ºC / minの速度で昇温させながら酸化カルシウムへの熱分解速度を示差走査熱量計(DSC)で測定した。昇温速度と反応終了温度との関係から各試料の熱分解反応の活性化エネルギーおよび頻度因子を求めた。
また北海道大学の低温科学研究所では、完全に熱分解処理した試料、熱分解反応を途中で停止させた試料も準備し、透過電子顕微鏡(TEM)による試料の観察および、TEM内でカルサイト試料を加熱することで熱分解過程のその場観察を行った。
弘前大学で行ったDSC測定によって反応速度を求めたところ、試料の種類、組成および粒径による活性化エネルギーに違いは見られず、この熱分解反応速度はCO2の脱離速度から決まる頻度因子によって支配されていることが分かった。また熱分解時に、熱分解反応に伴う吸熱以外に急激な反応熱のピークが見られた。このことは、カルサイトから酸化カルシウムへの直接の熱分解だけでなく、別の熱分解反応機構が存在することを示唆している。
熱分解反応の割合を変えたカルサイトをTEMで観察したところ、粒子の表面において水酸化カルシウムが形成されていることが分かった。酸化カルシウムは反応性が高く、容易に水と反応し水酸化カルシウムを形成する。そのため、この水酸化カルシウムは熱分解反応によって生成した酸化カルシウムが空気中の水分と反応して生成されたものであると考えられる。このような熱分解反応によって得られた生成物の変質を防ぎ、カルサイトの熱分解過程を明らかにするためには、反応後の空気中の水分との反応を防ぐために、熱分解反応をその場観察する必要があることが分かった。
一方、カルサイトをTEM内で加熱して熱分解過程をその場観察した実験では、加熱時の試料の電子回折像を観察し、熱分解に伴う結晶相の変化を調べた。当初カルサイトに由来する電子回折像しか観察されなかったが、加熱に伴いアラゴナイトの電子回折スポットが観察された。加熱による反応がさらに進むとアラゴナイトの電子回折スポットは消失し、最終的には酸化カルシウムに由来する電子回折像のみが残った。
これらの観察結果より、カルサイトの熱分解プロセスは、これまで考えられていたように、カルサイトが単に熱分解して酸化カルシウムへと変化するのではなく、炭酸カルシウムの準安定相を形成しながら熱分解反応が進行する別の熱分解反応機構が存在することが明らかになった。
  
成果となる論文・学会発表等 小畠秀和、井岡聖一郎、桐原慎二、赤平亮、木村勇気、生物由来の微細組織を利用した化学蓄熱材料の開発、日本結晶成長学会、2019
小畠秀和、木村勇気、カルサイト熱分解の前駆現象、JpGU 2020