共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

森林火災による北方林の攪乱動態を予測する数理モデルの開発
新規・継続の別 継続(平成29年度から)
研究代表者/所属 神戸大学農学研究科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 石井弘明

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

原登志彦 北大低温研

2

長谷川成明 北大低温研

研究目的 本研究では、極東ロシアにおける気候変動や社会情勢の変化にともなう森林火災の増加によって、将来的に植生がどのように変化するのかを予測することを目的とし、寒冷域植物生理生態研究室が長年蓄積してきた、ロシア、カムチャッカ半島における植生データをもとに、森林火災による北方林の攪乱動態を予測する数理モデルの開発を行う。平成30年度までの共同研究の成果から、現地の森林動態を再現する森林動態モデルを構築した。平成31年度は、火災による撹乱のシミュレーターを組み込むことを目的とした。
図1-3 図4-5、表1-4 
研究内容・成果 2000〜2004年の現地調査データをもとに、火災強度とその後の生存率・新規加入率などを解析し、火災後の動態モデルを構築した。火災強度についてはRのspatstatパッケージを用いて調査プロットを各1×1m格子に分割し、調査データをもとに各格子内における死亡率を固定帯域カーネル推定によって求めた。新規加入率については調査地を5×5mのプロットに分割し、各プロットの稚樹数と成木の数・サイズから重回帰分析を用いて推定した。各地点の死亡率は個体サイズや周辺の混雑度からロジスティック重回帰分析で求めた。また、火災時の新規加入率・死亡率については火災強度も入れて推定を行った。現地調査データから火災前の林分状態を初期状態とし、火災後4年間の森林動態をシミュレートした。
調査データでは、シラカンバは火災前はサイズの小さい個体が多く、カラマツはサイズの大きい個体が多かった(図1)。火災直後にはすべての樹種で小径個体が大きく減少した(図2)。これらの傾向はシミュレーターで再現できた(図3)。調査データで火災4年後には、カラマツの個体数はやや減少していたが、サイズ分布に大きな変化はなかった。また、シラカバの個体数は大きく減少していた。一方、シミュレータの結果では、シラカンバは減少せず、カラマツでサイズの小さい個体が減少しおり、調査データとの間に乖離があった。なお、カラマツとシラカンバのDBHについて火災直後、火災4年後でそれぞれKS検定を行ったところ、火災4年後のカラマツのみ調査データとシミュレータ結果との間で有意差があった(p<0.01)。また、シラカンバの火災直後から4年目までの間の死亡率について調査データとシミュレータの結果間で母比率の差の検定を行った結果、有意差があった(p<0.01)。
樹高1.3m未満の稚樹数を表1~4に示した。調査データでは、火災直後に萌芽する特性のあるシラカバとポプラの稚樹が多くなる傾向があった。火災直後の時点では、シラカンバの稚樹の個体数はシミュレータの結果とほぼ一致し、ポプラの稚樹の個体数はシミュレート結果の方がやや少なかった。火災4年後の稚樹の調査データはポプラのみ存在し、火災直後からは半減していた。一方、シミュレート結果ではポプラの稚樹の減少率はさらに大きかった。
以上から、シミュレーションによる火災直後のサイズ構造を再現できるものの、火災後4年目の結果には現地調査と違いがみられた。今後は火災後の動態をより正確に再現できるよう火災後の動態の検討を重ねる。
図1-3 図4-5、表1-4 
成果となる論文・学会発表等