共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

寒冷圏の森林土壌における細菌群集のリグニン分解機能の評価
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 東京大学大学院農学生命科学研究科
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 平尾聡秀

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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福井学 北大低温研 教授

研究目的 寒冷圏の森林では枯死木等の木質バイオマスが大きな炭素シンクとなっている。リグノセルロース分解は陸域の炭素循環の重要なプロセスであり、環境変動に対する生態系機能の変化を予測するためにも、そのプロセスを解明する必要がある。リグノセルロース分解に対する土壌細菌の寄与は、リター層の白色腐朽菌に比べて小さいと考えられていたが、近年では土壌細菌がリグノセルロース分解に大きく寄与していると推測されている。そこで、本研究では、長期間にわたってリター供給量が異なる森林土壌を比較することにより、リグノセルロース分解にかかわる土壌細菌群集の機能を評価することを目的とした。
  
研究内容・成果 土壌環境が詳細に調べられている東京大学秩父演習林の荒川源流部の冷温帯林を対象とした。2019年7月に、ブナ・イヌブナなどが優占する標高1,000 mの落葉広葉樹林において、防鹿柵内外の各6地点(計12地点)で深度10 cmから土壌を採取した。調査地域は長年にわたりニホンジカの食害を受けているため、防鹿柵外は上層木・下層植生が顕著に衰退しており、防鹿柵内に比べて、土壌へのリター供給量が少ないと考えられる。これらの土壌からゲノムDNAを抽出し、ナノポアシーケンサーMinIONを用いて16S rRNAアンプリコンシーケンス解析とショットガンメタゲノム解析を行った。そして、得られた配列から土壌細菌群集の分類群組成を決定し、機能遺伝子のアノテーションを行った。また、環境情報として、防鹿柵内外のリター供給量・上層木の胸高断面積合計・下層植生の被度の測定と、土壌pH・含水率・CNの分析を行った。そして、これらの土壌細菌群集と環境情報を防鹿柵内外で比較した。その結果、リター供給量・上層木の胸高断面積合計・下層植生の被度については、防鹿柵内が防鹿柵外よりも大きかった。また、土壌のpHとCNは、防鹿柵内が防鹿柵外よりも低く、含水率は防鹿柵内が防鹿柵外よりも高かった。土壌細菌群集は、防鹿柵内外のいずれもAcidobacteria門・Proteobacteria門・Actinobacteria門が優占していたが、Actinobacteria門は防鹿柵外よりも防鹿柵内で多く検出された。先行研究によりリグノセルロース分解に寄与することが知られているグループとして、Actinobacteria門のRhodococcus属とStreptomyces属が防鹿柵内で多く検出された。また、ラッカーゼやアリールアルコールオキシダーゼなど、主に土壌細菌に由来するリグノセルロース分解酵素の機能遺伝子群について、いくつかの遺伝子で防鹿柵内が防鹿柵外より多い傾向があった。これら結果は、細菌群集が土壌中の木質バイオマスのリグノセルロース分解に一定の役割を果たしていることを示唆している。今後は深度の違いや季節変化など、自然環境下での変動性を明らかにするとともに、基質を制限して分解経路を個別に評価することで、土壌細菌のリグニン分解への寄与に関する定量的な理解が進むと期待される。
  
成果となる論文・学会発表等