共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

ストレス依存的な活性酸素種による昆虫サイトカインの活性化機構の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 佐賀大農学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 早川洋一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

松本均 佐賀大農学部 非常勤研究員

2

矢上明彦 佐賀大農学部 非常勤研究員

3

落合正則 北大低温研

研究目的 本研究は、様々な環境に生息する昆虫の生存戦略を分子レベルで解明しようというものであり、これまで低温研において積極的に研究を推進してきた課題“多様な生物の環境適応”に相応しい内容と言える。昆虫は哺乳類と形態的に大きく異なる動物であるが、近年の生理学や発生学における細胞間・細胞内情報伝達系の研究は、細胞レベルでの極めて高い共通性を証明して来た。主に細胞間情報伝達に関与する因子がサイトカインと言えるが、本研究で着目したのは昆虫サイトカインの一種であるGrowth-blocking peptide(GBP)で、その活性化分子機構を明らかにすることが本研究の最終目標である。
  
研究内容・成果 今年度は、主にアワヨトウ、キイロショウジョウバエ、そしてカイコの幼虫を実験材料に用い、GBPプロセシング酵素によるGBP前駆体(proGBP)の活性化過程への活性酸素種Reactive Oxygen Species (ROS))の関与の可能性について解析を行った。熱ストレスを与えたアワヨトウ幼虫では、体液中のROS濃度が速やかに上昇し、その後proGBPからGBPへの活性化が観察された。すなわち、ストレス条件下で濃度上昇するROSがproGBP→GBPという活性化を誘起したものと解釈できる。今回、アワヨトウそしてカイコ幼虫へ体外から過酸化水素を注射したところ、熱ストレス時と同様のproGBPのプロセシングが観察され、更に、その際に血清中に分子量数100kDa以上のタンパク質複合体が出現することに気付いた。また、この高分子量血清タンパク質複合体の形成には、ROS依存的に血球から分泌されるタンパク質性因子が関与している事が明らかになった。一連の生化学的解析により、この高分子量タンパク質複合体は、哺乳類の血清中で発見されたinflammasomeとの関連性が示唆された。Inflammasomeは種々の内的・外的ストレスによって生じ、プロテアーゼを始め各種血清タンパク質を取り込んだ高分子量複合体であり、様々なストレス応答性の情報伝達に関与することが報告されている。プロテアーゼの中にはcaspase-1が含まれ、これによってサイトカインinterleukin-1betaのプロセシングが誘起される。従って、もしアワヨトウやカイコ血清中で過酸化水素注射後に観察される高分子量タンパク質複合体の出現とproGBPの活性化が直接関係するのであれば、生理的機能さらに活性化機構の観点から、GBPは昆虫におけるinterleukin-1betaに相当するサイトカインであることが示唆されたことになる。活性型GBPとinterleukin-1betaはそれぞれアミノ酸23残基、153残基と、構造的には大きく異なるサイトカインであるが、その起源は深い共通性を秘めているのかもしれない。何れにせよ、今後の解析によって更なる興味深い知見が得られる可能性大と期待される。
  
成果となる論文・学会発表等