共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	水熱環境での結晶成長の特殊性を1分子高さレベルで究める
新規・継続の別	継続（平成30年度から）
研究代表者／所属	山口大院創成科学
研究代表者／職名	助教
研究代表者／氏名	麻川明俊

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	小松隆一	山口大院創成科学	教授
2	越後至	山口大院創成科学	修士1年
3	佐﨑元	北大低温研

研究目的	水熱合成は産業的に有用な多くの材料で利用されており、水熱環境での結晶成長の理解は極めて重要である。しかしながら、水熱合成で用いる耐圧・耐熱の密閉容器を使用のため、水熱環境の結晶成長はブラックボックス化し、条件だしも長時間を要する。申請者は1年目に循環式の水熱中をその場観察できるチャンバーを作製することに成功した。これより世界に先駆けて水熱条件下で新型圧電材料のノルセサイトが炭酸バリウムから溶液媒介相転移する様子をその場観察することに成功した。本提案ではレーザー共焦点微分干渉顕微鏡を用い、水熱条件での結晶成長を1分子高さレベルでのその場観察に挑戦し、水熱環境での結晶成長の特殊性を解明する。
水熱条件下と大気圧下で得られた溶解度積　水熱条件下と大気圧下での結晶化による化学ポテンシャル　水熱条件でのカルサイトの溶解．BとC（420秒）：ピット（Aの白矢印）；白矢印頭：溶解ステップ
研究内容・成果	1）水熱条件下での溶解度計測はじめに、循環式の水熱中をその場観察できるチャンバーを用いて、3MPa下でのノルセサイトと炭酸バリウムの溶解度を計測し、水熱条件におけるノルセサイトの熱力学的安定性を調べた。粉末のノルセサイトや炭酸バリウムを入れた水熱条件その場観察チャンバーに室温、大気圧下の純水をポンプにより導入し、ICP発光分析と全有機炭素測定よりチャンバーから大気圧中に戻ってきた溶液をBa2+、Mg2+、CO3²-濃度を計測した。 Fig.1に水熱条件と大気圧下でのノルセサイトと炭酸バリウムの溶解度積Kの温度依存性を示す。曲線は温度依存性を考慮したvan’t Hoff式のフィッテイング結果を示している。3MPaの水熱条件でのノルセサイトと炭酸バリウムの溶解度積は大気圧下と同様に、室温から40℃付近まで増加し、温度の増加に伴い減少した。一方、水熱条件下でのノルセサイトの溶解度積は大気圧下に比べ5乗も低く、水熱条件下の方が結晶化しやすいということが明らかになった。更にフィッテイングから溶解エンタルピーΔHと溶解エントロピーΔSを求めた。値の正負を反転させ、理想溶液から結晶化した時の化学ポテンシャルを計算した（Fig. 2）。その結果、大気圧下では炭酸バリウムの方がノルセサイトよりも安定で、ノルセサイトは共沈より生成すると分かった。温度依存性を考慮することで前年度と異なる描像が得られた。一方、水熱条件ではノルセサイトと炭酸バリウムのエンタルピーが逆転し、ノルセサイトは炭酸バリウムよりも熱力学的に安定となった。また、水熱条件でのノルセサイトの結晶化は熱力学的にエンタルピーに支配されることが分かった。 2）水熱条件下でのステップレベルでのその場観察　1年目に用意した50μm程度の比較的大きなノルセサイトを用いて、レーザー共焦点微分干渉顕微鏡による水熱条件下でのその場観察に挑戦したが、失敗に終わった。そこで、我々の予備実験から予め分かっている最適条件、添加物条件を用いて、ノルセサイトの更なる巨大化に取り組んでいる。昨年度よりも育成に時間を費やし、圧力印加で観察結晶が流されない程度の大きな結晶を育成する。現在、100μmの結晶を育成することに成功している。更に、最近、新産業創出研究会や加藤科学振興会の助成より、長作動・高倍での観察が可能で且つ反射型/透過型干渉計と微分干渉顕微鏡を組み合わせた顕微鏡を開発したため、実験室で効率よく予備実験が可能となった。一方、数cmサイズの市販の炭酸カルシウム（カルサイト）を用い、水熱条件のレーザー共焦点微分干渉顕微鏡観察の溶解過程をその場観察することに成功した（Fig.3）。その結果、ピットの段差が0.3μm/s程度の速度で拡がると分かった。来年度こそはノルセサイトのその場観察を成功させる予定であるが、仮に実験が上手くいかない場合、難易度を下げてカルサイトの水熱中の結晶成長について調べる。
水熱条件下と大気圧下で得られた溶解度積　水熱条件下と大気圧下での結晶化による化学ポテンシャル　水熱条件でのカルサイトの溶解．BとC（420秒）：ピット（Aの白矢印）；白矢印頭：溶解ステップ
成果となる論文・学会発表等	[1] 麻川明俊，礒部馨，畝田廣志，越後至，小松隆一“ノルセサイトの溶液媒介相転移機構の特徴”，結晶成長国内会議，2019年度10月 [2] 磯部馨，麻川明俊，畝田廣志，越後至，小松隆一，“ノルセサイトBaMg(CO3)2の核生成と溶解の温度依存性”，結晶成長討論会， 2019年度8月 [3] 越後至，麻川明俊，畝田廣志，磯部馨，小松隆一， “硝酸アンモニウム添加によるノルセサイトBaMg(CO3)2の溶解度の改善” ，結晶成長討論会， 2019年度8月 [4] 麻川明俊，畝田廣志，越後至，小松隆一，“ノルセサイトの溶液媒介相転移キネティクス” ，日本地球惑星科学連合2019年， 2019年度5月 [5] 越後至，麻川明俊，畝田廣志，小松隆一，“ノルセサイトBaMg(CO3)2の結晶化における硝酸アンモニウム添加の効果” ，日本地球惑星科学連合2019年， 2019年度5月 [6] 越後至，麻川明俊，畝田廣志，小松隆一，“ノルセサイトBaMg(CO3)2の結晶化に及ぼす硝酸アンモニウム添加の影響” ，MRS-J山口大学支部， 2018年度1月