共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

チョウ類の休眠性に関連した表現形質制御に関する解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 山口大学大学院創成科学研究
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 山中 明

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

清永晋平 山口大院創成科学研究科 博士前期課程2年

2

落合正則 北大低温研

研究目的 チョウは世代を維持していくために、各種が独自に獲得した休眠性(夏眠・冬休眠など)を持っている。申請者は、季節適応の表現形質、特に、日長・温度で制御される表現型可塑性に着目し、チョウの体色や鱗粉が可塑性を示すことを明らかにしてきた。また、これら形質が地理的変異を可能性が示唆されてきている。今回、より詳細な形態学的解析ならびに分子生物学的な発現調節機構の側面から解析することを目的とする。
  
研究内容・成果 ジャコウアゲハの蛹には非休眠蛹、休眠蛹および長日休眠蛹が存在しており、それぞれ夏型成虫、春型成虫および長日休眠羽化成虫が羽化する。一般に、夏型成虫は春型成虫に比べて体長が大きく、翅の黒色が薄く、腹部背側の毛状鱗粉が短い。
 本研究では、蛹の休眠性の違いにより鱗粉の形状に変化が生じているか検討するため、春型および夏型成虫における前翅背側の上層鱗の指状突起数の比較を行った。その結果、春型および夏型成虫では指状突起数を指標として分けた5種の上層鱗の構成が異なることが示唆された。また、長日休眠羽化成虫は春型成虫に似た上層鱗の構成をしていることも明らかになった。
次に、同様な変化が他のアゲハチョウ科でも起きているか検討するため、ナミアゲハ、アオスジアゲハおよびクロアゲハで季節型間の指状突起の数の比較を行った。その結果、クロアゲハのみで季節型間の上層鱗の構成が異なることが認められ、季節型の違いによる指状突起数の変化は黒色アゲハ類のもつ季節型形質のひとつであることが示唆された。
 さらに、ジャコウアゲハの上層鱗表面の微細構造を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、夏型成虫の上層鱗表面に存在する縦隆起の間隔幅が春型および長日休眠羽化成虫のものよりも広く、横梁は春型および長日休眠羽化成虫ものと比べて少なかった。以上より、夏型成虫の上層鱗における横梁の密度は春型成虫および長日休眠羽化成虫よりも小さく、季節型の違いによる翅の濃淡の差はこの密度の差によって生じている可能性が示唆された。
これら上層鱗および腹部背側の毛状鱗粉の変化に内分泌調節機構が関与しているかを調べるため、蛹の脳-食道下神経節複合体から調製した粗抽出液を休眠覚醒蛹に投与する実験を行った。その結果、投与個体と対照群において上層鱗の指状突起の数の変化はわずかではあるがみられた。また、横梁の密度の減少、上層鱗の長さの増加および腹部背側の毛状鱗粉の長さの減少も起きていることが観察され、蛹のBr-SG複合体に含まれる神経内分泌因子がそれらの変化に関与している可能性が示唆された。
指状突起の数の差が鱗粉形成の際に生じているか検討するため、非休眠蛹、休眠蛹および長日休眠蛹における鱗粉の形成過程を生物顕微鏡下で観察したところ、休眠蛹および長日休眠蛹の指状突起の形成に要する時間は非休眠蛹よりも約1日程度長かった。また、休眠蛹および長日休眠蛹の翅組織には赤色色素の沈着が観察された。
 以上より、ジャコウアゲハの鱗粉の形状や微細構造は蛹の休眠性の違いによって変化し、その一部はBr-SG由来の因子によって部位特異的に調節されている可能性が示唆された。
  
成果となる論文・学会発表等 山中 明・勇村悠介・北沢千里・落合正則
モンシロチョウ成虫における山口および札幌個体群間の毛状鱗粉
日本動物学会第89回大会デジタルプログラム集, p55, 2018, 日本動物学会第89回札幌大会(北海道:), 2018.9.13-15.