共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

落葉樹林の林床の常緑草本の葉における低温ストレスへの光合成系の保護機構の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 東京薬科大学
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 野口航

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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田中亮一 北大低温研 准教授

研究目的 落葉樹林の林床では、夏季は気温が高いが光強度が弱く、冬季は光強度が強いが気温が低い。そのため落葉樹林下の草本種にとって、1年間ストレスが高い環境である。そのような草本種のウマノスズクサ科タマノカンアオイは約1年間の寿命の常緑の葉をつけており、環境の季節変化に応じた光合成生産を行っている。しかし、どのような機構で光合成系を維持しているかについて不明な点が多い。強光への光合成系の保護機構として、キサントフィルなどの色素系の変化などが知られている。しかし、冬季の低温・強光下の常緑草本種の葉でどの系が重要かは不明である。本研究は、常緑の林床植物の葉の光合成系色素の変化を明らかにすることを目的とした。
自生地のタマノカンアオイ(2017年3月撮影) タマノカンアオイの葉のクロロフィルあたりの光合成色素の組成と量の季節変化 
研究内容・成果  申請者が所属する大学キャンパス内に広がる落葉樹林の林床に自生する常緑草本種のタマノカンアオイを用いた(写真を参照)。自生地の光環境や気温を継続して測定した。鉢に移植した個体を自生地に置き、それの葉の光合成速度(CO2固定速度や電子伝達速度)を、ガス交換法、クロロフィル蛍光法やP700の吸収測定法で1ヶ月おきに継続して行なった。その結果、タマノカンアオイの自生地では、落葉樹が葉をつける夏にかなり光の強さが制限されていること、落葉樹が葉を落とす秋から冬では気温は低いが、光強度が増加していることを明らかにした。また、低温かつ強光になる冬には、光合成の光化学系IとIIの両方が光阻害を受けたこと、また、過剰光エネルギーの熱散逸を示すパラメータNPQとともに光合成電子伝達速度が増加し、春には光化学系IIの光阻害は回復したことを明らかにした。
 2017年度から約3ヶ月おきにタマノカンアオイの葉をサンプリングし、凍結保存した。2018年10月に田中亮一博士の研究室のHPLCシステムを利用して、それまでにサンプリングした葉の光合成色素の測定を行なった(図を参照)。その結果、光捕集にはたらきうるα-カロテンは薄暗い夏に蓄積し、光が強くなる冬にはほとんどなくなっていたこと、クロロフィルaとb量も冬には減少したことを明らかにした。一方、ルテイン、ネオザンチンなどのキサントフィルはβ-カロテンとともに秋から冬に増加した。林床が明るくなる冬にはキサントフィルサイクルの光保護にはたらくゼアキサンチン量が増え、光捕集にはたらくビオラキサンチン量が減ることも明らかにした。キサントフィルやβ-カロテンは冬の強光からの葉の保護にはたらいていると考えられる。
 また、田中亮一博士の研究室でNative PAGEでタマノカンアオイの葉の光合成タンパク質複合体の分離を試みた。モデル植物のシロイヌナズナのようにはいかなかったが、今後の実験を進める上でとても参考になった。
自生地のタマノカンアオイ(2017年3月撮影) タマノカンアオイの葉のクロロフィルあたりの光合成色素の組成と量の季節変化 
成果となる論文・学会発表等 野口 航, 和田尚樹, 近藤壱星, 中田大暁, 尾崎洋史「絶滅危惧種タマノカンアオイの葉の光合成系の季節変化の解析」日本植物学会第82回大会 2018年9月(広島国際会議場、広島市)