共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
アミノ酸の炭素同位体比を用いた生態系の解析手法の萌芽的研究 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 海洋研究開発機構 生物地球化学研究分野 |
研究代表者/職名 | 研究員 |
研究代表者/氏名 | 石川尚人 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
1 |
力石嘉人 | 北大低温研 |
研究目的 | 本研究の目的は、(1)食物連鎖におけるアミノ酸の炭素同位体比の変化を調査すること、および(2)生態系の炭素サイクルを解析する新しい手法を開発するための萌芽的なデータを得ること、である。具体的には、応募者等が採取した生物試料(植物、昆虫、魚類など)および環境試料(土壌、溶存有機物、堆積物など)に含まれるアミノ酸の炭素同位体比を、北海道大学低温科学研究所・力石研究室の有するガスクロマトグラフ・同位体比質量分析計で測定する。得られたデータから、食物連鎖においてなぜ、どのように炭素同位体比が変化するのか、を考察し、生態系における炭素サイクルの解析法を確立するための基礎的知見を得る。 |
|
|
研究内容・成果 | 本研究の目的を達成するために、まず、力石教授と共同でガスクロマトグラフ・同位体比質量分析計による同位体比測定の最適化を行った。湿式操作による前処理から機械への導入、分離、検出に至る一連の実験過程を詳細に検討し、アミノ酸の炭素・窒素同位体比測定法の改良を行った。また、力石教授と共著で執筆していた以下の論文のとりまとめを行い、国際誌に投稿、受理された。 タイトル: A new analytical method for determination of the nitrogen isotopic composition of methionine: Its application to aquatic ecosystems with mixed resources 概要: 多くの動物にとって必須アミノ酸の1つであるメチオニンは、藻類、陸上植物を問わず、アミノ基が転移されない。一方、フェニルアラニンは、陸上植物でリグニンの合成に使われるため、アミノ基の転移が起こる。この過程で、大きな同位体分別がかかるため、陸上植物は、藻類など水域の一次生産者とは、異なるフェニルアラニンの同位体比をとる、と考えられる。実際に、メチオニンの窒素同位体比を使って栄養段階を推定すると、陸上でも、海洋でも、陸域と水域の有機物が混合する河川でも、食物網を描けることが分かった。特に、ヘビトンボ、カワゲラ、トンボ幼虫など、河川の捕食性昆虫が、陸上植物からのアミノ酸の寄与を受けており、メチオニンの窒素同位体比でこの影響を補正することで、捕食者として生態学的に妥当な、およそ3という栄養段階を得られることが分かった。以上の成果は、Limnology and Oceanography: Methods誌に発表した。 さらに、アミノ酸の分子レベル放射性炭素濃度を正確に測定し、環境試料の解析へと応用する方法論を開発した。まず、高速液体クロマトグラフィーによって各アミノ酸を単離し、さらに湿式操作による精製処理を施すことで、従来法を用いた場合の不純物の混入量を、最大で約7割減らせることが分かった。以上の成果は、Analytical Chemistry誌に発表した。この手法を用いて、海棲大型生物の筋肉コラーゲンに含まれる、8種類のアミノ酸(グリシン、アラニン、グルタミン酸、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、フェニルアラニン)の放射性炭素濃度を、元素分析計-加速器質量分析法により測定した。その結果、ほとんどのアミノ酸は、海水中の溶存無機炭素や、コラーゲンの放射性炭素濃度と同様の値をとることが分かった。現在、成果をとりまとめて論文を執筆中である。 |
|
|
成果となる論文・学会発表等 |
Ishikawa NF (2018) Use of compound-specific nitrogen isotope analysis of amino acids in trophic ecology: assumptions, applications, and implications. Ecol Res 33:825-837. Ishikawa NF, Chikaraishi Y, Takano Y, Sasaki Y, Takizawa Y, Tsuchiya M, Tayasu I, Nagata T, Ohkouchi N (2018) A new analytical method for determination of the nitrogen isotopic composition of methionine: Its application to aquatic ecosystems with mixed resources. Limnol Oceanogr Meth 16:607-620. Ishikawa NF, Itahashi Y, Blattmann TM, Takano Y, Ogawa NO, Yamane M, Yokoyama Y, Nagata T, Yoneda M, Haghipour N, Eglinton TI, Ohkouchi N (2018) Improved method for isolation and purification of underivatized amino acids for radiocarbon analysis. Anal Chem 90:12035-12041. McCallister SL, Ishikawa NF, Kothawala DN (2018) Biogeochemical tools for characterizing organic carbon in inland aquatic ecosystems. Limnol Oceanogr Lett 3:444-457. |