共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

飼育ウナギの代謝活性の測定
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 千葉科学大学危機管理学部環境危機管理学科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 小濱剛

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

鷹野翔太 千葉科学大学大学院危機管理学研究科 修士課程

2

力石嘉人 北大低温研

研究目的 本研究の目的は,環境水の塩分濃度と代謝活性の関係を明らかにするために,海水(塩分濃度3%)・汽水(同0.8%)・淡水(同0%)を模して飼育したニホンウナギについて,アミノ酸の安定窒素同位体比を測定する。そして,得られた結果(餌と飼育個体の間の15Nの濃縮率の差)を解析することで,環境水の塩分濃度が生物に与える影響,もしくは,生物がどのように塩分の異なる水に適応しているのか,という生物学・生態学・進化学の根本的かつ重要な課題に対して,代謝活性の側面からの知見を得ることである。
  
研究内容・成果 ニホンウナギは,代表的なモデル生物の1つであり,食資源としても,絶滅危惧種という意味でも重要な研究対象である。また,海水・汽水・淡水と幅広い塩分濃度の環境で成育できるため,本研究の対象として相応しい。一方で,ニホンウナギの飼育には時間がかかるため,本研究では,(1) 来年度の安定同位体比測定を目指し,ウナギを海水・汽水・淡水で飼育する,および,(2) 成長の早い別魚種(ギンユゴイ)を海水および低塩分水で飼育し,安定同位体比を測定する,の2つを本年度の目標とした。(2) は,(1)のニホンウナギの研究を行うにあたり,確実に結果を得るための基礎データおよびノウハウの取得を目的とした。
 ギンユゴイを約150日間,海水・低塩分水で飼育すると,海水では約2.2倍,低塩分水では約3.8倍に成長し,低塩分水では海水の約1.75倍速く成長した。また餌と飼育個体の間のアミノ酸の同位体比の変化率は,海水飼育では,グルタミン酸で8.0‰,フェニルアラニンで0.5‰,低塩分水飼育では,グルタミン酸で4.5‰,フェニルアラニンで-0.2‰であった。これらの結果は,飼育水の塩分濃度が,魚の代謝活性に大きな影響を与えている,すなわち,少なくともギンユゴイに関しては,低塩分水飼育では,代謝(=エネルギーの消費)が著しく低下し,成長速度が著しく増加していることが,観察および同位体比の変化の両方から明らかになった。
 今後は,まもなく飼育が完了するニホンウナギに関して同様の解析(同位体分析と観察結果の比較)を実施し,環境水の塩分濃度が両魚種に与える影響,もしくは,どのように塩分の異なる水に適応しているのか,を明らかにしていきたいと考えている。また、自然環境下における生育水質が異なる魚種(淡水魚:例えばコイ等・海水魚:例えばマダイ等)を追加し、併せて比較を行いたい。生物は海から進化し,陸上に進出した。一方で多くの生物の体液の塩分(ナトリウムイオン)濃度は,海水の約1/3であり,海水に比べて明らかに低塩分である。次年度も本共同研究を続けることで,安定同位体比を指標とした各魚種の成長効率を数値化することが可能となり、各魚種に対する最適飼育水の開発が期待されることから、次世代に向けた効率的生産技術の確立に貢献したいと考えている。
  
成果となる論文・学会発表等