共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

未利用の北方系カラマツ属樹種の遺伝資源情報の収集
新規・継続の別 継続(平成28年度から)
研究代表者/所属 北海道立総合研究機構林業試験場
研究代表者/職名 研究主任
研究代表者/氏名 石塚航

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

原登志彦 北大低温研 教授

2

小野清美 北大低温研 助教

3

田畑あずさ 北大低温研 特任研究員

4

新田紀敏 北海道立総合研究機構林業試験場 主査

研究目的 北方系針葉樹カラマツ属のダフリカカラマツ複合種(Larix gmelinii complex)はユーラシア大陸極東部に広く分布し、寒冷環境への幅広い適応ポテンシャルがある。このうちグイマツ(L. gmelinii var. japonica)は、最終氷期に北海道にも分布していたことがわかっているが、その後地域絶滅し、現在は分布していない。しかし、その有用性から、林業用樹木の1種として北海道に導入されて利用されており、さらなる利用のためにも遺伝的改良が進められている。それには未利用の北方系カラマツ属樹種・系統や遺伝資源があるかの把握が求められるため、まずは本共同研究において、植物標本を用いたL. gmeliniiの分布情報の収集、DNAの収集を行う。
  
研究内容・成果 これまでの共同研究によってすでに、北海道で林業利用されるグイマツ複数家系の葉緑体遺伝情報を用いた解析により、カラマツ属内他種と比べてグイマツが幅広い遺伝的系譜を有していることが推定されている。グイマツの分布全域、また、L. gmelinii(ダフリカカラマツ複合種)を含めた系統関係の整理が求められるが、日本国外に自生地があって容易に収集することができないため、北方圏植物調査にて収集され、北海道大学総合博物館の植物標本庫に所蔵されている標本を研究対象とした。
まずは、カラマツ属の標本全点を調査し、樹種、採種地情報、標本状態等より、解析可能な標本を選出した。その結果、L. gmeliniiであるとみられ、かつ、収集地点がサハリン全域である標本18点、色丹・択捉島である標本4点、ユーラシア大陸内である標本8点、北海道である標本3点の合計33点の標本を選出できた。サハリンは大きく北部、中部、南部と3地域に区別することができ、標本の枝形態には変異があることが観察された。L. gmeliniiの分類は諸説あるが、確かに形態形質からは分類は困難だった。なお、標本収集年は。1917年から2012年と幅があった。
続いて、葉緑体DNA情報から系統関係を浮き彫りにするため、選出した全標本それぞれより数枚の針葉をサンプリングし、これらからのDNA抽出を試みた。その結果、十分な分子遺伝解析が行えるとみられる20ng/uLのDNA濃度を担保できなかった標本サンプルが5つあり、収集後に年を経たことによるDNA分解や標本乾燥処理に伴うDNA劣化等に起因するとみられた。一方、1920〜40年台の標本でもDNAが抽出できたものもあった。次に、葉緑体DNAマーカーを用いてPCR増幅の有無を試みたところ、標本は現生サンプル(新鮮な葉からDNA抽出)と比べて著しく増幅効率が劣ることが分かった。DNA断片化による質の低下、具体的には、DNAマーカーの標的領域の保存数が減っていることが原因ではないかと考えられた。これは、葉緑体DNAマーカーで標的とする領域の長さを極端に短くするなど、マーカー開発を工夫することで解決できる可能性がある。
なお、今回得られた標本DNAは、新たなDNA分子遺伝解析につなげることができるため、次年度以降には、L. gmeliniiの系統解明や未利用遺伝資源の把握をより深めていきたい。
  
成果となる論文・学会発表等 石塚航・新田紀敏・田畑あずさ・小野清美・原登志彦 (2019) 植物標本のゲノム情報を用いたカラマツ属の系統復元の試み, 第66回日本生態学会大会, 神戸国際会議場 神戸. 2019年3月18日発表
石塚航・田畑あずさ・小野清美・福田陽子・原登志彦 (2018) オルガネラゲノム情報を用いたLarixの交配樹種・系統判別, 森林遺伝育種学会第7回大会, 東京大学 東京. 2018年11月9日発表