共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

森林火災による北方林の攪乱動態を予測する数理モデルの開発
新規・継続の別 継続(平成29年度から)
研究代表者/所属 神戸大農
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 石井弘明

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

原登志彦 北大低温研

2

長谷川成明 北大低温研

研究目的 極東ロシアでは、近年の気候変動や社会情勢の変化にともない森林火災が頻発している。森林火災は大規模な生態系攪乱であり、広範囲に及ぶ植生変化をもたらすことから、景観レベルの森林動態に影響を与える。本研究では、極東ロシアにおける気候変動や社会情勢の変化にともなう森林火災の増加によって、将来的に植生がどのように変化するのかを予測することを目的とし、寒冷域植物生理生態研究室が長年蓄積してきた、ロシア、カムチャッカ半島における植生データをもとに、森林火災による北方林の攪乱動態を予測する数理モデルを開発することを目的とする。
モデルシミュレーションと観測データによる200年生林分の構造比較  
研究内容・成果 森林火災後2年,40年,200年程度と推定される調査プロットにおける毎木調査データをもとに、各遷移段階で優占するPopulus tremula,Betula platyphylla,Larix cajanderiの3種について、加入、成長、生存に関するモデルパラメーターを推定した。加入個体数は1.3m以下の個体数と生存率から推定した。Larix及びPopulusは同種個体の半径1m以内に多く存在することや,Larixは他種個体の半径3m以内には少ないことから,加入しやすい場所を推定した。一方、Betulaは株立ちによるクローン成長を特徴とし,稚樹は株立ち更新と実生更新の両方によって加入し得る。株立ちの割合は遷移の段階によって異なり,遷移後期の方が単幹樹形を取るものが多かった。成長、生存に関する解析では,周辺個体による影響が9m以上にまで及んでいることが示唆された。各樹種によって成長量・生存率を決定する要因は異なるが,一部の樹種では周辺の樹木が多い場合,成長量が低下する一方で生存率が上昇する傾向が見られた。また,Betulaでは株立ち個体の多さや樹木の大きさも成長量や生存率に関与していた。
 推定された加入個体数、成長量、生存率の推定をもとに,動態を個体ベースで再現するシミュレータを製作した。火災後40年のプロットを初期状態として50年程度のシミュレートを行った結果,遷移後期に多くなるはずのLarixはあまり増えず,遷移初期に多いPopulusが増加するという、観察データと異なる結果を得た.
 本研究では、2001-2004という短期間の観測データに基づいてモデルのパラメータを推定したため、長期的な動態をうまく再現できていない可能性がある。今後は文献などを参考に、各樹種の生態的特性を考慮し、さらにモデルを改良する必要がある。モデルによって森林動態が再現できた時点で、森林火災による攪乱ルーチンを加える予定である。
モデルシミュレーションと観測データによる200年生林分の構造比較  
成果となる論文・学会発表等 HR Ishii, S Horikawa, Y Noguchi, W Azuma(2018)
Variation of intra-crown leaf plasticity of Fagus crenata across its geographical range in Japan. Forest Ecology and Management 429, 437-448